こんな話聞いちゃったらあたし、何も言えなくなるに決まってるじゃん…。
莉人くんなら、あたしが何も言えなくなることくらい、分かってたはずじゃない…っ。
零れる嗚咽を必死で抑えながら涙を流した。
隣にいる侑京がそっとあたしを抱き締めてくれた。
「…ごめん、凌ちゃん……」
莉人くんの声はどこまでも優しくて、どこまでも切なさを含んでいた。
あたしに対する想いが伝わってくる。
本当に謝ってるんだって、分かる。
だけど、あたしは何も言えなくて。自分のことで頭がいっぱいで…。
だから莉人くん、一つだけ聞かせてください。
「…もしっ、」
「ん?」
「…もし、その時菜乃花と会ってなかったら…っ、あたし達は……っ」
―――"今でも一緒にいられた…?"
そんな事、言えない。
でもね、本当はずっと一緒にいたかったんだよ。
侑京と出会えて嬉しいけど。一緒にいてくれる事が幸せだって感じるけど。
同じように、莉人くんにも隣にいて欲しいと思っちゃうんだよ――…。
続きを言えないあたしに侑京が何かを言いかけたのが分かった。
だけどそれを遮るように、莉人くんが言った。
「俺は、ずっと凌ちゃんと一緒にいたいよ」
「……っ…」
その言葉は侑京への宣戦布告みたいに聞こえた。
侑京もきっと同じように感じ取ったんだと思う。
「――凌を、譲れと?」
そう聞いたから。
「……侑京がいいならいつでも貰う。欲しい。…けど、結局は凌ちゃん次第だかんな」
そう言った莉人くんはきっと今、切なそうに笑ってるんだろう。
俯いているあたしには莉人くんの表情なんて分からない。
だけど声から分かってしまう。
ずっと一緒にいたから。
誰より想っていたから――。
無言の時間はまるであたしに答えを求めて来ているようで耐え切れなかった。
「……っごめん、お手洗い、行くね」
そう言って逃げるようにトイレに駆け込んだ。
卑怯者のあたし。
臆病なあたし。
弱い、あたし。
こんな自分大嫌いだ――…。
どうして莉人くんに"ごめんなさい"って言えないの。 どうして"侑京がいるから"って言えないの。
どうして、自分の気持ちしか考えられないの―――。
2人がいつもあたしの事を一番に考えてくれるのを分かってる。
痛いくらい伝わってきてるのに。
あたしはどれだけ自分に甘いの? どれだけ自分が可愛いの?
どれだけ、最低な人間なの……っ…。
少しの間あたしは一人、泣いていた。


