「うっちゃーん!帰ろー!」
「悪ぃ将貴、ちょっと凌のとこ行く」
「ん、オッケー。じゃーな!」
「おー」
将貴の誘いを断りながら長い廊下を歩く。
凌に莉人さんとちゃんと話すって言うつもりだが、凌はそれをよく思わないような気がしてきた…。
はぁ……。ため息を零しながら2階への階段を下りる。
なんか、学年毎に階が違うって不便だよな…。
せめて凌のクラスとは隣同士がいい。毎時間じゃなくとも、廊下ですれ違ったりしたいし。
―――なんか俺、女々しい?
自分で自分に問うている間に凌のクラスはもう目の前。
教室はクーラーが付いているせいか全ての扉はキッチリ閉められている。
廊下で待つしかない、か…。
肌にへばりつくカッターシャツをパタパタと仰ぎながら窓にもたれ掛かる。
修学旅行まではまだ数ヶ月もある。
でも今はその数ヶ月さえあっという間に過ぎるんじゃないかと思ってしまう。
凌のことについて話したい。莉人さんの言葉で聞きたい、聞いてみたい。
あの時の想いを。莉人さんはあの時、何を思ってたんだ――…?
それに凌は何も言わなかったけど、あれから2人は会ったのか…?
もし会っていたとすれば、少なからず思うことがあるはずだよな……。
「あ、侑京!」
扉が開いた音と同時に凌の声がして振り向く。
そこには嬉しそうな顔をして俺に駆け寄ってくる凌。
「どうしたの?」
無邪気にそう聞いてくる凌が可愛くて俺の頬が緩まないわけがない。
「ふっ」
「侑京?」
「ははっ、なんでもない。今日一緒に帰れる?」
俺の言葉に凌はチラッと後ろを見た。
……あ、もしかして先約?
俺の考えを読んだらしい凌が「なっちゃん達と…」と言いずらそうにしている。
じゃあ夜に電話する、そう言いかけた俺より先に柚野先輩が凌に言った。
「凌ちゃん、うちらはいいから! 侑京くんと一緒に帰りなさい!」
柚野先輩にそう言われた凌はうーん…と小さく悩んだ後、静かに頷いた。
「ありがとう、なっちゃん」
そう言う凌だけど、顔はどこか申し訳なさそうで。 ……そう言う優しいところも好きなんだよな。
凌の手をそっと取れば慌てたように俺を見てくる。
顔が一瞬で赤くなって行く凌を見てみんなで笑う。
恥ずかしそうに俯きながら俺の手をしっかり握り返してくる。
そんな小さなことさえ可愛くて、愛おしくて。
俺、本当にベタ惚れだな…。


