「うっちゃん。ちょっと話がある」
翌日の朝。
教室に入るなり凌の従姉妹であり俺の友達の優奈がそう言ってきた。
いつもはおちゃらけている優奈の顔が今日は真剣な目をしていて。
「……おぅ」
なんとなくだけど、話したい内容が分かった気がした。
1限目が始まるまでもう5分もない。
うーん……次の休み時間にするか…。そう思った俺とは反対に優奈はサボれるか聞いてくる。
正直サボるなんて気が進まない。
けど今回ばかりは仕方ない。なんたって大事な凌の話だろうから…。
俺は頷いて見せ、優奈と2人で空き教室に向かった。
「――…話って凌の事だろ?」
俺の言葉に優奈は静かに頷いた。
やっぱりな…。 薄々感じていたから驚きはしない。
「うっちゃんは、凌の話を聞いてどう思った?」
優奈の声はいつもより小さくて、俺と同じように凌を大切に思ってることがひしひしと伝わって来る。
「……凌はあんな小さくて細い体でツライ過去を背負ってたんだな」
「うん…そうだよ……」
「凌は心が強いんだ。だから何も無いフリをして周りに心配かけないようにする。自分が傷付く事を知りながら…」
「確かに凌は強い。でも、凌が強くいられるのはみんながいるからなんだよ」
「……そうだな…」
優奈の言葉に俺は頷くことしか出来なくて。
凌の過去をずっと知らないでいたら後悔していたと思う。
ちゃんと聞けて良かった。そう思う反面、莉人さんを一発殴ってやりたいとも思う。
それくらい腹立たしかった。憎かった。なんで凌を傷付けたんだよ…。
握った拳が掌にくい込んでいく。
「それと、昨日聞いた話」
「ん?」
「優奈たち冬に修学旅行あるじゃん。その時に莉人さんと会うかも――…」
「………は?」
な…んだよソレ…。意味分かんね…。
動揺を隠しきれない俺に優奈は言葉を続ける。
「凌の親友の弟と優奈が仲良くて聞いた話」
同じ学校なんだって。そう言った優奈の言葉が耳から耳へとすり抜けて行く。
一気に迫ってくる緊張感、不安、憎さ、腹立たしさ。
どれをどういう風に整理すりゃあいいんだよ…。
頭の中でグルグルと回る優奈の言葉は俺の思考を停止させる。
そして浮かぶ疑問。
「――その事、凌は知ってんの?」
もし、知っていたとすれば…。
だけど優奈は首を横に振った。
……それは知らないって事でいいんだよな?
そう思いながら見つけると「多分、知らない」そう言った。