「――これが、あたしの過去」


そう言ってへらっと笑ってみせる凌が今にも壊れてしまいそうで。


俺は何も言わず強く抱き締めた。


「…侑京?」


心配そうに俺に声をかけてくるけど、俺の方が心配してると思う。


だって、今までの凌の過去はあまりにもツラすぎだろ…。


「…俺は凌を離すつもりないよ」

「………うん」

「絶対別れないし、別れたくない」

「…ありがとう」

「俺は、凌が好きだ…っ」


抱き締める腕に力を込める。


俺の抱きしめる力で折れてしまうんじゃないかと思うほど小さくて細い体。


こんな小さな体でどれだけの苦しみを抱えてたんだよ…。


友達は知ってると言った凌だけど、やっぱりどこか寂しそうで。 もっと、もっと早く、凌と出会いたかった――。


莉人さんより早く、出会ってたかった――…。


そしたら凌は傷付かずにすんだかもしれないんだろ?


俺が凌とタメだったら…。


こんな事思ったってどうにもなんねぇのは分かってる。


けど、思わずにはいられないだろ…。


「…ねぇ、侑京」

「…………何?」

「中学生のあたしはきっと驚いてると思うよ」

「……?」


急に話し出した凌の声は穏やかで。


抱き締めている俺の方が泣いてしまいそうになる。


「だって、あの頃のあたしはもう恋なんて出来ないと思ってた。誰も好きになんてならない、好きになれないって思ってたから」

「…うん」

「だからね、こうして侑京と出会ってまた恋をしてるあたしを見たら驚きだよ」


そう言って可笑しそうに笑う凌は儚げなのにとても強い。


心が、精神が。


凌ほど強い女なんてそうそういないと思う。


そう感じるほどだった。


だけど強いからこそ、俺は不安になるんだ。


「なぁ凌、無理だけはすんなよ…?」

「大丈夫。今のあたしは本当に幸せだから。侑京がいてくれるから、幸せなんだよ」

「…っそれでも、俺だって気付かないうちに凌を傷付けるかもしれねぇじゃん……」


不安気にそう言う俺に凌は小さく笑った。


「それでも、侑京は莉人くんとは違うでしょ?」


それがどういう意味なのか俺にはハッキリ分からない。


でも一つだけ言えるとしたら、


「違う。俺は、誰より凌を大切にする」


それだけだ―――……。


もう誰にも凌を傷付けさせない。


俺も、傷付けない。


だからと言ってずっと気を張るのは違う。自然体でいいんだ。


俺も、凌も、一緒にいるんだ。


「俺たちはお互いが自然体で、素でいられる存在でありたいな」

「…うん、そうだね」

「凌、俺はずっと凌が好きだ」

「…あたしも侑京が好きだよ」


凌が誰かに傷付けられたなら俺が癒せばいい。


俺が凌を傷付けてしまったなら2人で癒せばいい。


そうすれば悲しくない。怖くない。


だから絶対に、1人で泣いたりすんなよ…。