それが君の願いなら。



莉人くんと別れてからあたしの毎日はガラリと変わった。


侑菜には合格したと言うことより先に莉人くんと別れたことを報告した。


授業をサボってまであたしの話を聞いてくれる侑菜に縋り付いて泣いた。


苦しくて仕方ない……。哀しくて生きていけそうにもない……。


もう、恋なんて出来ないと、強く感じた…。


裏切られたなんて思ってない。 莉人くんの行為が裏切りに値するのかも分からない。


ただ、莉人くんと別れたことが哀しくて泣いた。 莉人くんが隣にいないことが寂しくて泣いた。 莉人くんを好きな自分が惨めで泣いた。


あたし達が別れたことはもちろんお互いの両親も知っていて。


あたしと莉人くんが別れて数日後うちに来た麻衣ちゃんと恵五くんはあたしを元気付けようと必死だった。


「凌、ごめんね…」


そう言って謝ってくる麻衣ちゃん。


「凌は田宮になると思ってたけどな…」


そう言いながら悲しい顔をする恵五くん。


そんな2人にあたしは無理にでも笑って見せながら「大丈夫」だと言い放った。


お母さんとお父さんも心配してくれていて。


何も聞いてこないし言ってこないけど、毎日毎日何もする気が起きない…。


学校に行っても授業中は寝てばかり。


先生に怒られたって知らないふりをしてやり過ごす。


そんなあたしの態度に生徒指導の先生は「受かっても真面目にしろ!」なんて言って怒鳴り散らした。


――何も知らないくせに…っ。


そう思う度に、あたしも何も知らなかったのに…と思ってしまう。


隠されていたこと。菜乃花と会っていたこと。告白されたこと。キスされたこと。


………莉人くんから、キスしたこと…。


あたしは本当に莉人くんの彼女だったのかな…なんて最近になってよく思う。


菜乃花から幾つも着信が入る。メールも、LINEも来る。


だけどあたしはそれら全てを無視した。


今はまだ何も話したくない。もうこの事を口にしたくない。


そう思いながら菜乃花が家に訪ねて来ても全部断った。居留守を使う時だってある。


莉人くんとはあれから口を利くこともなくなった…。


たまに何か言いたげにこっちを見ているのに気が付いていたけど知らないふりをする。


あたしはそんなに強くないんだよ……。


ずっと莉人くんが好きだったから…。誰より大好きで大切だったから…。


そんな簡単に癒えるような傷じゃないんだよ……。




――そうして迎えた中学校の卒業式。


流す理由もないのに涙が溢れた。場の雰囲気って言うのかな…。


ううん、違う。


莉人くんと過ごしたたくさんの思い出があるこの学校とは今日でサヨナラなんだ。


――…もう、莉人くんとは会えない。会うことだってない。


「高校が違ってよかったかもしれない…」


あたしの独り言を掻き消すかのように桜の花が舞った。


これで莉人くんとは本当に終わり。最後。


あたしは恋をする怖さを思い知りながら高校生になる――。

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