それが君の願いなら。



部屋に戻ってからはまた少し勉強をした。


"受験生に休みはない"なんて言葉を聞いたことがあるけど、本当にその通りかもしれない…。


時計の針が22時半を回ってもあたし達は勉強に励んだ。


――コンコン


ノックの音と同時にガラッと開く部屋の扉。


「凌ちゃん、この漢字なんて読むの?」


部屋に入って来たのは悠ちゃん。どうやらゲームの漢字が読めないみたい。


「どれどれ?……これはね…」

「……ありがとう!」

「…悠ちゃん、部屋に1人寂しくない? こっちの部屋来る?」


あたしの問いに莉人くんが「来てもいいよ」と言ってくれ、悠ちゃんは嬉しそうに笑った。


「電気消してくる!」


そう言って隣の部屋に駆け込みすぐ戻って来た。


そんな行動が可愛くてついつい笑っちゃう。


お兄ちゃん大好きな悠ちゃんだから寂しかったよね。今日は殆どあたしが莉人くんと一緒にいたから余計に寂しかったんだと思う。


「悠ちゃん、ごめんね」


謝るあたしに悠ちゃんは首を傾げた。


「凌ちゃんのせいじゃないだろ。俺が一緒に居たかったから居ただけだし」


フォローするようにそう言ってくれる莉人くんだけど、やっぱり申し訳なくて…。


悠ちゃんはあたし達2人を交互に見てもう一度首を傾げた。


そんな悠ちゃんに笑って再び勉強に取り掛かる。


莉人くんもああ言ってくれたけど、本当は悠ちゃんが大好きな事をよく知ってる。


世間から見ればかなりのブラコンだろうけど、それはそれで素敵だと思う。


勉強をしながらあたしは莉人くんと初めて会った日のことを思い出してた。


理由なんてない。ふと思い出した。本当は昨日のことのように覚えてるんだけど…。




――ねぇ、莉人くん。


受験勉強をしながら莉人くんは何を思ってたの…?


あたしはこの時が幸せすぎて先の事なんて何も考えられてなかったよ。


ただ、"今"莉人くんと一緒にいられることが嬉しくて、幸せで。


…あたし達の別れはすぐそこまで来てた。


それに気付かなかったあたし。


莉人くんの態度は変わらなかった。気持ちだって変わらなかった。……そう信じてる。


強く想い過ぎてただけなんだよ。


怖かった。これ以上好きになることが。これ以上依存してしまうことが。


そう思ったのはあたしだけじゃないよね…。


だからこそ、あんな事を言ったんだって、あたしは信じてる。


莉人くんの側にいたい。一緒にいたい。


どんな願いよりも強く強く願った。


あたし達は子供だった――。


それだけだよね――…。