それが君の願いなら。



莉人くんの部屋はあまり物がなくていつも綺麗にしてある。


家具自体もそんなに無いから余計に綺麗に見えるのかな…。


部屋に入ったままボーッとするあたしの顔を莉人くんが覗いてくる。


「凌ちゃん?」

「えっ? 何!?」

「勉強すぐ始めるつもりだったけど、先にご飯食べる?」


莉人くんの優しさに胸がホッコリする。


「ごめんね、大丈夫だよ」


ニコリと笑えば莉人くんは「無理すんなよ」と言いながらあたしの頭を撫でてくれた。


――早速開いた教科書とノート。


あたしはもちろん数学を。莉人くんは特にコレと言って苦手科目はない人だから、適当に選んだであろう公民をしている。


こういう時頭が良い人って羨ましいよね…。


そんな事を考えながら勉強を初めて数十分。


「莉人くん…」

「どこ分かんねぇの」

「……ここぉ」

「見せてみ」


数学ってだけでもやる気が出ないのに、頑張ってやっていた問題もひっかけがあればすぐ躓く。


泣きそうなあたしに丁寧に教えてくれる莉人くん。


どうしよう…すっごく分かり易い……。


「あたし学校行かなくていいから莉人くんと勉強してたい…」


ボソッと呟いた言葉に莉人くんの顔が赤くなった。


意味が分からず首を傾げるあたしに大きな溜め息を付いた後、急に後ろから抱き締めて来る。


「り、莉人っ、くん!?」


キョドるあたしなんてお構い無し。あたしの肩に顔を埋め、耳元から甘い声が響いた。


「……俺、誰より凌ちゃんが好きなんだよ…」

「っき、急にどうしたの」

「……誰より好きで誰より大切にしたいと思ってる。だから、んな事簡単に言うなよ…」

「――…莉人…くん……?」


いつもと様子が違う莉人くんの声に不安が込み上げてくる。


一体どうしたの…? 普段の莉人くんなら照れてそんな事言わない。


なのにどうして…。


あたしの不安は募る一方。


――そう言えば最近の莉人くんの様子がおかしかった事に今更気付く。


……ううん。本当は気付いた。気付いて、知らないふりしてたんだ…。


だって、莉人くんを信じてるから。大丈夫だって、2人でいれば何も怖くないって信じてるから。


だけど今日は流石に変だよ…?


それともあたしが騙されてるだけ? すぐ信じちゃうあたしだからかな…?


不安な思いは口に出せないまま、莉人くんはそっとあたしから離れた。


そして何もなかったかのように振る舞う。


「勉強続けよ」

「……うん」


それ以上何も言ってこない莉人くんにあたしが追求出来るはずもなくて。


いつもより真面目に受験勉強を続けた。