それが君の願いなら。



中3になり『受験生』と言うレッテルを貼られるようになってもう3ヶ月。


気が付けば莉人くんと過ごす何度目か分からない夏が来た。


「凌ちゃーん」

「はーい」


莉人くんに呼ばれた理由は今夜の話。


「今日何時頃来んの?」

「うーん、そのまま行ったほうがいいかな…」

「どうする?1回帰るなら迎えに行くけど?」

「それは大丈夫!もう夏だし明るいし!」

「や、俺が心配だから行く」

「……直接行きます」

「りょーかい」


会話を終えて自分の席に戻って行くと侑菜がニヤニヤとあたしを見ていた。


「……?」


首を傾げれば「夫婦?」なんて聞いてくるから肩を殴ってやる。


そんなんじゃない! 今日は金曜日だし、莉人くん家に遊びに行くだけ!泊まるわけでもないのに!


――なんて言っても通じないだろうから敢えて言わない。


小さくため息をついた後次の授業の準備をする。


次は確か……数学かぁ…。


嫌いだなー数学…。現文がやりたい…。漢字書くか読みたい…。


「数学なんてしたくない…」


あたしの呟きに反応した侑菜があ!と声を出した。


「莉人くん家行くなら数学教えてもらえば?」

「えーヤダよー」

「でも凌数学出来ないじゃん」

「だからって莉人くんに教えてもらうのはどうかと思う」

「えぇー」


そう言うあたしに不満を漏らす侑菜。確かに莉人くんは理数系が得意だけど、お互い受験生なんだから。頼ってばっかじゃダメだよ。


「あたしだって数学出来ないわけじゃないもん!」

「あーそうね。はいはい」


適当な相槌を打って自分の席に戻る侑菜の後ろ姿に「バカ」と囁いておいた。


だけど本当に、まだ夏だからって言って安心してはいられない――…。


もっと言えばもう夏。


あたしと侑菜の入試は2月だけど、莉人くんはあたし達より少し早い1月。


お互い今が頑張り時。部活だってついこの前引退したばかり。


部活に行かずまっすぐ帰る日常にまだ慣れないけど、やらなきゃいけないことは部活じゃなくて勉強なんだもんね…。


もう何度目か分からないため息をついたと同時に先生が入ってきた。


数学なんてやってやれるか…。


「凌〜ノート開けよ〜」

「…………はーい」


先生の言葉に仕方なくノートを開き嫌々授業を受け始める。


あぁ、早く夜にならないかなー。そしたら莉人くんの側にずっと居られるのに…。