それが君の願いなら。



そんな簡単に、言葉に出来る想いじゃないんだよ――…。


あたしは侑菜を小さく睨んだ。


「莉人くんを諦めてなんて言えない。あたしにそんな事言える権利なんてないから。――ただ、あたし達2人の邪魔だけはしないで……」


そう言い放ったあたしの目を見て侑菜は苦しそうに、だけどしっかりと頷いてくれた。


「何も言わない。侑菜だってそんな事は言えない。ただ、もう凌と一緒にいる事も莉人くんの側にいる事もないよ」

「……ごめんなさい…っ」


泣きそうになる声を抑えながら小さく謝った。


あたしはいつもワガママだ…。 侑菜を傷付けたくなかったのに…。ちゃんと話し合って笑い合いたかったのに……。


あたしは、どれだけバカなんだろう――…。


「凌」


侑菜の声にあたしはそっと顔を上げる。


「泣かなくていいよ…。いつか侑菜が莉人くんを諦められた時、普通に話せると思うから」

「――っ、うん…」

「…莉人くん待ってるんじゃない? じゃあね」


そう言って侑菜は1人部室を去った。


残されたあたしは1人、声を押し殺して泣いた。




――どれくらいの時間が経ったのか分からない。そんな事をぼんやり考えていた時。


「凌ちゃん」


部室に入って来たのは莉人くん。


……待っててくれたのかな…。


正常に働かない頭でそんなことを思う。


「り、ひと…くん……」

「うん、よしよし」


そう言って何も言わずにあたしの背中を摩ってくれる。


その手が優しくて。暖かくて。


また、涙が溢れる。


「ねぇ、莉人くん…。あたし、間違えたのかもしれない…っ」


泣いて言葉を詰まらせながらそう言うあたしに「大丈夫」と言ってくれる。


何も分からないはずなのに。 敢えて何も聞かないでいてくれる。


それが莉人くんの優しさだって、あたしは知ってる。


あたしの側にいてくれる人はどうしてこんなにも優しいのかな…。


侑菜だってあたしの為になくなって言ってくれた。大丈夫だって。また話せるよって。


あたしの心配事を見抜いて、先回りしてそう言ってくれる…。


それを申し訳なく感じながら、あたしはいつもその優しさに甘えてしまう。


「りひっ、と、くん…っ…」


ポロポロと零れ落ちる涙を優しく拭ってくれる親指。ぎこちないのに、どうしてこんなに安心するの…。