それが君の願いなら。



「侑菜!」


部活が終わった放課後。着替えを済ませ部室を出ていこうとする侑菜をあたしは引き止めた。


緊張するな…。


「――…何?」


どこか冷たい侑菜の視線が怖くて、悲しくて、泣きそうになる。


一瞬「なんでもない」なんて言葉が口を突いて出そうになった。


あたしは一呼吸置いて言葉を紡いだ。


「……あたしね、莉人くんと付き合い始めた…」

「……」

「侑菜が莉人くん好きなの知ってる。あたしもずっと好きだったから…」

「……それで?」

「えっ…と…その、報告…です……」


あたしが言い切ると相変わらず冷たい目であたしに「良かったね」そう言って帰って行く。


侑菜の言葉に目を見開く。


どうして? いつもならそんなアッサリ身を引く事なんてないのに…。


「――侑菜」


あたしは静かに、名前を呼ぶ。


振り返った顔は鬱陶しいと訴えているようで。


「言いたいことあるなら言って。あたし達の仲でしょ? 今更何を隠す必要があるの? ……あたしは、侑菜にだから言ったの。隠し事なんてしたくなかったから」


そう言ったあたしに侑菜は本当にゆっくりだけど、全てを吐き出していった。


「……んで…」

「え?」

「…なんでっ、侑菜じゃないの!? 侑菜の方が凌より莉人くんを好きなのに! 侑菜の方が莉人くんの事いっぱい知ってるのに…! なのに…なんで凌なのっ!?」

「うん、ごめん…」

「ごめんじゃないよ! 侑菜が好きなの知ってていつも莉人くんの話ばっかしてくるし…腹立つ……!」

「あたしも思ってたよ。 中学生になる少し前、侑菜が莉人くんと付き合うって噂を聞いて、本当に悲しかった。悔しかった」


2人の事が大好きなのに、応援も出来ない自分に腹が立った。


だけど同じくらい2人が付き合うことが嫌だった…。


素直に喜べない。応援するなんて事も言えない。


あたしは、弱い人間なの――…。


だから、こんな言葉を吐き出してしまうあたしを、許さなくていいよ…。


「……侑菜はさ、あたしの気持ち考えた事ある? あたしね、一目惚れだったんだよ」


初めて莉人くんを見たあの日。心から何かを感じた。 今までの男の子とは違うものを。


それがきっと、一目惚れの証拠。あたしの中に湧き上がってきた新しい気持ち。


「あたしの方が本当は仲良いって気付いてるでしょ? だから嫉妬して、妬んで、イライラしてるんじゃないの?」

「っるさい! あんたに何が分かんの!侑菜の方が仲良い!侑菜の方が莉人くんを好きなの! あんたなんかに負けるものなんて何一つないの!」

「……それは違う。だって、あたしは誰より莉人くんが好きだもん。侑菜と仲悪くなっても、侑菜がいなくなっても。莉人くんが側にいてくれるならあたしはそれだけで生きていける」


本当に、心からそう思う。


それくらい今のあたしには莉人くんが必要なの。大切なの。