それが君の願いなら。



樹英となっちゃんは家から少し遠い中学校に行った。


あたしと侑菜は家からそれほど遠くない地元の中学に。


あたしは時々なっちゃんと電話したりして、学校での出来事や侑菜たちの事を話してた。


なっちゃんの元にも同じように侑菜から電話が来てたこともあったみたいで。ただ、それは良い話ばかりじゃなかった。


あたしに対する不満を聞いた時もあった。


……侑菜だって色々思ってるんだって感じて、反省した事もあったよ。


あたしと莉人くんは中学に上がっても相変わらず仲良くて。それが気に入らなかったんだと思う。


気が強くて負けず嫌いの侑菜の性格を考えればすぐ分かること。


…あたしに、負けたくなかったんだよ。


昔から努力家の侑菜と違って、あたしは特に何かを努力してたわけじゃない。


勉強だって出来るものと出来ないものがハッキリ別れちゃうし、運動も基本苦手。


毎日家で勉強してる侑菜の姿を何度も見たことがあるから、本当に凄いなって今でも思ってるよ。 運動神経だってもともと良いし、余計に羨ましいよ…。


あたしがそう感じるように、侑菜な多分莉人くんの仲良くしてるあたしが羨ましかったんじゃないかな…。


お互いずっと一緒にいるから喧嘩だって多いし、ぶつかる事も多々あった。


――大きい喧嘩をしたことがなかったあたしと侑菜も、一生に一度あるかないかの大喧嘩をしたことがある。


それはあたし達が中1の夏頃。


部活が終わり、校門を出ようとした時。


「凌ちゃん」


「わっ!びっ、くりしたぁ…どうしたの?」


莉人くんに呼び止められたあたしは驚きながら近付く。


普段から仲良いあたし達だけど、中学生になってからは一度も一緒に登下校したことはなかった。


莉人くんが好き。


そう実感してから自分の想いを素直に言えなくなった気がする。


中学生になれば、あたし達が付き合ってると言う噂がすぐに広まった。


それが原因で教室以外の場所で莉人くんといる事は少なくなっていって。それでもこうして仲良くいられたのは莉人くんが話しかけて来てくれるから。


あたし達がまだお互いを必要だと思う瞬間があるから。


……それだけの事。


侑菜も同じクラスだから3人で一緒にいる事もあった。あたしはどうしても2人にしたくないと思ってたけど…。


「凌ちゃん?」


「…あっ、ごめん。何?」


ボーッとしてるあたしの名前を心配そうな声で呼んでくる莉人くん。


「久しぶりだな、2人で帰るの」


「……そうだね」


莉人くんの言葉に小学生の頃よく一緒に帰っていた日々を思い出した。


あの頃は毎日一緒にいて。口喧嘩が多くて。


一日中口を利かない日だってあった。


そんな時はいつもあたしが一人寂しくなるの。それで帰る時にいつも「莉人くん」って声かけちゃう。