振られた侑菜をあたしは慰めることも出来なくて。
ただ、見てることしか出来なかった…。
だって、なんて言えばいいの? あたしが声をかけたって侑菜は腹立つだけでしょ?
……あたしに出来ることなんて何も無いんだよ。
だけどそれから少しして事件が起きた。
"侑菜と莉人くんが付き合う"
そんな噂があたしの耳に入った。理由は分からない。誰がそんな事を言ったのかも分からない。
ただ一つ確かなこと。それは、莉人くんの言葉だけ。
あたしは侑菜、樹英、なっちゃんの3人より『莉人くんが大切だ』って思ってた。
あの頃のあたしは何を考えてたのかな……。
侑菜と莉人くんが付き合うって噂を耳にした数日後、あたしは莉人くん家にいた。
お母さん達に着いてきたって言った方が正しいんだけど。
莉人くんの部屋にいると莉人くんが口を開いた。
『侑菜ちゃんと付き合った方がいいかな? 怖いんだけど…』
全部理解してる上で付き合おうとしてるんだ…?
原因不明のイライラを抱えながら莉人くんの話に耳を傾けた。
『僕はその気はないけど…。中学に上がればちゃんと付き合いたいって侑菜ちゃんに言われた』
『……ふーん。付き合うの?』
『…うん。断ったら怖いじゃん』
『そんな理由で付き合うの、やめたら?』
『自分の身になにか起きるよりいいだろ』
そう言う莉人くんにずっとイライラしてた。自分の気持ちを言えばいいじゃん。 女の子に怯んでどうするの? 言いたいことちゃんと言ってよ、って。
だって、嫌だったから…。 侑菜のことは大好きな友達だと思ってた。莉人くんも同じように大好きで大切な人だと思ってた。
――だからこそ嫌だったんだと思う。
莉人くんには自分の気持ちに素直になって、付き合いたくないなら侑菜にそう言って欲しかった。
どうして侑菜なの?
あたしの方が仲良いのに。あたしの方が莉人くんを理解してるのに。莉人くんだってあたしの事をよく理解してくれてる。
それなのに侑菜を選ぶんだね。あの頃のあたしはいつもそう思ってた。
この話は小学校を卒業する時までずっと続いてた。
侑菜の中で叶えたい約束。
あたしの中で叶えたくない約束。
それらが葛藤して侑菜と口を利かない時だって良くあった。増えた。
もうダメだって思ったりもしたよ。
……だけどあたしの願いを神様はちゃんと聞いてくれたの。
中学に上がっても侑菜と莉人くんが付き合うことは無かった。


