それが君の願いなら。



――お昼休みの出来事は幸いにも誰も見ていなかったみたいで。


少しホッとしたのも束の間。


放課後の今。あたしは教室で1人侑京を待つ予定だった。


「ねぇ、何があったのー!?」

「そろそろ教えてくれてもいいじゃんかー!」

「早く吐けっ!」

「榊来る前に早くっ!!」


「…………」


どうしてこうなっちゃったの…。


頭を抱えるあたしに質問してくるなっちゃん、樹英、侑菜、雅ちゃんの4人。


いや、悪いのはあたし。そう、あたしが悪い。分かってる、けど……。


「もう少し声のボリューム下げてよー!」


いくら教室にあたし達以外の誰もいないからって…!


「誰かに聞かれてたらどうするの!」


怒るあたしとは逆にニコニコと楽しそうな様子の4人。


はぁ…どうしてこうも反省の色がないんだろう……。


そう思いながら仕方なく口を開いた。


「まず、どうしてお昼のこと知ってるの?」


あたしの問いに樹英が答える。


「ジュース買いに行こうと思って教室出たら凌ちゃんと侑京くんが抱き合ってたんじゃん!」


「よ…よりによってそんな場面を…!!」


恥ずかしくなって両手で顔を隠すあたしに樹英は尚も続ける。


「まぁホントは凌ちゃんが抱き着いたとこから見てたんだけどね〜」


「きゃあ―――!! 言わなくていいから!!」


「別にいっ…んぐ!」


必死で樹英の口を手で抑える。


「いや、本当に恥ずかしいから!」


「でも抱き着いたんでしょ?」


「だーかーらっ!」


焦るあたしに聞いてくる楽しそうな雅ちゃん。


もうダメだ。今度からは絶対抱き着かない!何が何でも抱き着かない!


自分に言い聞かせてると、今度は侑菜が言った。


「それくらい好きって事はいい事なんだから、別にいいんじゃない?」


その言葉にはグッとくるものがあって。


多分、あの人の事を言ってるんだよね。


雅ちゃんも事情は知ってる。 事情って言っても、あたしの過去なんだけど。


だからみんなの優しい瞳に涙が出そうになって。それを必死で堪える。


涙目になってると思うけど、あたしは静かに口を開いた。


「みんなは知ってるから言うけど、本当は今でも少し怖い…。侑京があたしを好きになってくれて死ぬほど嬉しい。 ……だけどそれと同時に、あたしはまた知らない間に侑京を傷付けちゃうかもしれないって…」


そう言うあたしに樹英が、


「傷付けるのは嫌だけど、誰も傷付けない人間なんていないよ。凌ちゃんは人間だから誰かを傷付けちゃう。同じように侑京くんだって誰かを傷付けちゃう事もあるんだよ」


その言葉にとうとう涙が溢れた。