それが君の願いなら。



「凌ぉぉおおおお!」


「ん?…っわぁ! 侑菜!?」


廊下を絶対走ったりしない侑菜があたしを目掛けて走って来る。


どうしたの?、そう聞くより先に侑菜が口を開く。


「ちょっと! 榊と付き合い出したって何!? さっき樹英ちゃんに聞いてビックリしたんだけど!?」


「ご、ごめんっ」


「LINEも電話も来てないし! 吐けコラァ!」


ガクガクとあたしの肩を揺らす侑菜に謝りながら昨日の出来事を簡潔に話す。


一通り話し終えたあと、ふぅ、と一つため息をついた侑菜。


「その日に言ってくれなかったのはちょっと腹立つけど…おめでとう。良かったね」


そう言って微笑んでくれる侑菜に抱き着いた。


鬱陶しそうに「何!」と言ってくるけど、嬉しいんだから仕方ないじゃん。


「言わなかったのはごめん。でも、直接言おうと思ってたから誰にも言ってなかったんだよ。」


「……うん、分かってる」


「分かってるんだ…」


「や、分かんなかったけど」


「意味分かんない」


そう言って笑いながら「そろそろ放して」と突き放して来る。


冷たいな、なんて思ったけど、いつもの事だからそこまで気にしない。


腕時計を見て2限目が始まるまであと3分程だと確認。


次は移動教室……だったよね、確か。


「じゃあ、またお昼に行くね」


そう言って教室に戻ろうとした時。


「ねぇ、凌」


侑菜に呼び止められもう一度振り向く。


そこには戸惑いながら、どこか寂しそうな顔をした侑菜がいて。


……なんとなくだけど、言いたい事が分かってしまう。


それを知らないふりして、「どうしたの」とあたしは聞いた。


「……榊にちゃんと言った?」


―――やっぱり。


だけど何も知らないみたいに惚けて見せた。


「何を?」


「……莉人(りひと)くんの事…」


その名前を聞いてドキッとした。 だけどそれは疚しい意味なんかじゃない。


あたしの心が弱いからなんだ。


「そのうち、言おうと思ってる」


あたしの言葉に嘘はない。本当にそう思ってるよ。 ただ、侑京に聞かれたら、の話であって、あたしから話すことはないと思う。


大丈夫。あたしはもう弱くないから。


そんな意味を込めて侑菜に笑いかけた。


「じゃあ、またね」


手を振り教室に向かうため足の向きを変えた。


――背中に侑菜の視線を感じながら。