蝉の声が鳴り響く今日この頃。


気が付けば季節は初夏に突入していた。


そして今は数学の授業真っ最中。


「いいかお前らー。まだ高2だーなんて言って油断してると痛い目見るからなー。」


先生も暑さのせいで声に気力がないように感じる。


教室は冷房が効いてるけど人数が人数なだけに教室全体まではそうそう風が行かない。


廊下側の一番前のあたしの席だって風が来なくて少し蒸し暑い。


先生はチョークを置いてあたし達の方に向き直り、言葉を続けた。


「俺は中学の頃からずっと教師になりたかったし、そこまで苦労はなかったが、お金が絡んでくると早いうちから色々済ませといた方がのちのち楽だかんな。」


数学の先生はどこか熱血な感じを漂わせておいて、本当は面倒くさがりな先生。


生徒からも嫌われてるわけじゃないんだろうけど、自分からはあまり話しかけに行かないタイプ。


ちなみにあたしもあまり好きじゃない。もっと言うと数学は大ッ嫌い。


意味分かんない公式使って問題解いて将来何の役に立つって言うの。


足して引いてそれに掛けたり割ったり出来れば生きているじゃん。


だから数学は嫌い。意味分かんないもん。


そんな事を思いながらボーッとしていると授業を終えるチャイムが鳴った。


日直の声で号令がかかる。


「「ありがとうございましたー」」


ダルそうな声が響いた後は、みんなの活き活きした声に変わる。


授業終わりっていつもこう。そんな周りを見て1人笑みを零す。


「凌ちゃーん、トイレ行こー?」


樹英が「教室出たくないケド…」とボヤきながらあたしの席に来る。


「ははっ。いいよ、行こ」


2人で教室を出れば廊下はモヤッとした空気が充満していて。樹英と顔を見合わせずにはいられなかった。


「はぁ…。夏ってホント嫌い!暑い!暑すぎる! 汗止まんないじゃんかー!」


汗掻きな樹英は叫びながら廊下を歩く。


「叫ぶと余計暑くなるよ?」


「あぁ! よし、今日から小声で話そう!」


「いや、樹英は無理だよ」


「はぁー!? 何それ!!」


「ほら、無理じゃん」


笑いながらそう言えばハッとした様子で慌て出す。 ……本当に可愛い。


幼なじみで十数年の付き合いだけど、樹英は昔から本当に可愛い。女のあたしでもそう思うくらい。


だけど本人に可愛いと言えば「は?どこが?」と言ってくるだけで、自分の可愛さを自覚してないかなりの天然。……そこがまた可愛いんだけど。