それが君の願いなら。



「え、榊くん来てたの…?」


「そうだよ!だから、ほれ!」


笑顔のなっちゃんはまるで、「行って来い」と言ってるみたいだった。


その笑顔であたしは決心する。


言いたいなんて本当は決まってる。だけど、まだ言えないから。


臆病なあたしは、弱いから。


だから、今言えるあたしの言葉を伝えるね…。


「榊くっ――…」
「梅原先輩」


……あたしが呼び切る前に名前を呼ばれてしまった。


人の間を掻き分けてあたしの元に来てくれる。


それと同時に、1年生からの視線をすごく感じるのは気のせい、じゃないよね…?


あ、そうだ。榊くんはこの学校でかなりの有名人なんだもんね。


整った顔してるだけじゃなく、運動神経抜群な上に頭脳明晰だってなっちゃんが言ってたし。


そんな人気者を訪ねて来るあたしをよく思わない女の子だって沢山いるよね…。


「梅原先輩?」


考えていたあたしの耳に榊くんの声が届く。


「あっ、ごめんなさい…! えっと…、さっき教室来てくれてたって友達から聞いたんだけど…」


「それでわざわざ来てくれたんですか?」


「や、あの、友達に言われて…」


「それでも来てくれたんですね。ありがとうございます」


「〜〜っ!」


そんな笑顔、ズルいよ……。


あぁ、ダメだ。あたし本当に榊くんの笑顔に弱いな…。


「ねぇ、榊くん」


「なんですか?」


「…あたしと、友達になってくれますか?」


そう言うと榊くんは大きな目を更に大きくした。


そしてあたしの大好きな笑顔を見せてくれた。


「もちろんです」


あたしも、精一杯の笑顔を見せた。


「榊くん!これから、よろしくね!」


「ふっ。先輩無邪気過ぎですよ」


「……あ、チャイム…。じゃあ戻るね。」


「――先輩」


「ん?」


「下の名前で呼んで下さい」


「――っ! つ、努めます…」


声を出して笑った榊くん…改め侑京(うきょう)くんは本当に魅力的だった。