それが君の願いなら。



あたしが有名人? この学校の?


何それ。聞いたことない。有名人なのは榊くんであって、あたしじゃないでしょ?


それに、あたしが有名になる理由なんてない。樹英や侑菜の方が有名なはずだよ…?


そんなあたしの心の声を知ってか知らずか、榊くんは言葉を続けた。


「容姿端麗の梅原凌って言えば、この学校で知らない人はいませんよ?」


「な、にそれ…。初めて聞いた…。」


大体、いつからそんな噂が…?


榊くんは入学して来た時から騒がれてたみたいだけど。


って言うかあたし、榊くんの名前しか知らなかったんだよね。


こんなカッコ良いのに、どれだけ視野狭いんだろう…。


「梅原先輩」


「…はい?」


「今更ですが、初めましてですね」


「…初めまして」


「仲良くして、くれますか?」


「え、っと…。はい……」


「ありがとうございます」


そう告げた榊くんはそそくさと自分の教室に戻って行った。


――なんだろう。なんだか嵐が去ったみたいな気分…。


あたしの知らない事がこの学校にはまだまだ沢山あるんだって分かった。


それは自分のことも、周りのことも。


それともう一つ分かったのは、榊くんはイメージと少し違うってこと。


イメージとか見た目からするとすごくクールな感じがするのに、話してみるとそれだけじゃないんだって分かった。


話してるだけで分かる優しさ。


そう言えば一度、サッカー部で頑張ってる姿を見たことがある。1年生なのにレギュラーで、ディフェンスを頑張ってた記憶がある。


今考えると、あの頃からあたしは自然と榊くんに惹かれてたのかな…なんて。


都合の良い考え方ばかりしちゃダメだよね。


だけどちゃんと確かめたいと思うよ。


あたしのこの気持ち。


確信するにはまだ早いのかもしれない。 だけど、好きだって思った瞬間から恋は始まってるものだと思う。


あたしのこの気持ちはきっと、"初めまして"の気持ちなんだよ…。

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