溢れ出した涙を止める術なんて、あたしは知らない。
莉人くんは絶対に幸せにならなくちゃいけないのっ。
あたしのことを忘れて誰より、世界中の誰より、宇宙の誰より幸せにならなくちゃいけないのに…っ。
どうしてそんな事言うの……。
莉人くんの言葉が嬉しいのに、心がダメだと叫ぶ。
あたしの心が、莉人くんを解放しろって許さないでいる――…。
「……俺を好きだって言ってくれて嬉しい。けど侑京の事もやっぱり大切で、好きなんだろ…?」
「……っ…」
「……正直者はどっちだよバカ…」
何も言えないからこその答えで。
あたしはどうしても大切な人を大切に出来ない――。
好きだと思うのに。
溢れてくる想いはいつだって一つなのに……。
侑京のことも、莉人くんのことも大切に出来ないでいた。
「…りひとっ…くん……」
「……なんだよバカ」
「ごめっ…大好きなの……っ本当に、莉人くんが…好きっ…」
「っもういい喋るな……凌ちゃんの言いたいことは分かってる…」
何も言えない自分が腹立つ。
莉人くんだって言いたいことたくさんあるはずなのに……っ。
泣き止まなくちゃ、いけないのに……。
無理矢理深呼吸をして気持ちを落ち着かせてみた。
とめどなく溢れてくる涙を無視して口を開く。
「莉人くんっ…あたしの、話を聞いて…」
「うん、聞かせて……」
どこまでも優しいね、莉人くんは……。
こんな時にまで優しいなんて…いつか絶対損するよ……。
莉人くんの優しい性格が大好きだけど、心配だな…。
「侑京にも、莉人くんが好きだって伝えたの…」
「……うん」
「っ侑京は、これからも幸せでいろって…そう言ってくれた……。だけどあたしは幸せでいられないから…っ。 侑京を騙したのに、莉人くんを傷付けてるのに、あたしだけ幸せでいるなんて出来ないのっ」
だから、サヨナラしたの、侑京と。
「―――それで俺ともサヨナラすんの?」
「……っ、うん…」
あたしの声は莉人くんに聞こえるか心配なほど小さかった。
今のあたしと莉人くんの目の前には黒のミニローテーブルがあるだけなのに、この距離がすごく遠く感じてしまう。
「凌ちゃんはさ、俺が凌ちゃんなしで幸せになれると思ってんの?」
「……思ってるよ」
「それは凌ちゃんの"願い"だろ」
「っ違う! 莉人くんは、あたしがいなくても幸せにな――」
「なれねぇよ!」
「っ!」
声を荒らげた莉人くんに自然と肩が跳ねる。
怒鳴られたわけじゃない……。だけど莉人くんにこんな風に言われるのは初めてで…。
余計に驚いてしまう。
「…っ、ごめん」
「う、ううん…あたしこそ、ごめんなさい……」
謝ってくる莉人くんは何も悪くない。どう考えてもあたしが悪いんだ。
傷付けてばかりのあたしに莉人くんが謝ることなんてない。謝る必要なんてない。
「―――そんな顔しないでよ…っ」
今にも泣きそうな莉人くんを目の前にして笑うことなんてあたしには出来ない……。
侑京にも莉人くんにも、あたしは笑ってて欲しいの…。
あたしがこんな事言う資格ないかもしれないけど、あたしの本当の願いなんだよ……。
「侑京も莉人くんも……どうして泣くの…っ。 あたしなんか…っ忘れて欲しいのに……っ…」
こんな最低最悪な人間の為に涙なんて流さないで。
最悪だなって、嘲笑ってくれていいんだよ…。
思い出したくないって、過去に蓋をしてくれていいんだよ…。
それなのに……どうして2人は…っ…。
「―――凌ちゃんは俺や侑京と出会って好きになって、付き合って…どうだった……?」


