あたしの話を聞き終えた侑京は静かに口を開いた。
「………俺は、莉人くんに勝てなかったワケだ…」
「――っ…」
ははっ、と泣きそうな顔して笑う侑京にあたしは何も言えなくて。
違う……あたしにとって侑京は特別だった。
そう言いたいのに……どうして何も言えないんだろう…。
俯いたあたしの頭に温かな手が触れる。
そっと顔を上げると侑京が泣きそうな声で言う。
「凌が俺を嫌いになっても、俺はずっと凌が好きだよ」
「っ嫌いになんてなれないよ!」
即答するあたしを見て目を丸くした後、嬉しそうに笑った。
「ありがと。 ……これから莉人くんのとこ行くんだろ?」
全てを見透かしたように聞いてくる侑京にあたしは頷いて見せる。
「凌が幸せなら俺は何も言わないよ。 ただ、莉人くんがまた凌を傷付ける事があるなら、なんて言おうと奪いに行く」
「………ありがと…っ」
「今泣くなー。莉人くんが心配すんぞ?」
「…うっ…ううっ……」
堪え切れずに泣くあたしを侑京の温かくて優しい腕が抱き締める。
この温もりをあたしは一生忘れない――。
忘れるわけないよ……だって、侑京はあたしがもう一度恋した相手だから…。
忘れるわけない、絶対。
「よしよし。 ……これで、最後な」
そう呟いた侑京の左手があたしの頬に触れた。
静かに顔を上げれば、優しく愛おしそうにあたしを見つめてくる侑京の瞳があって。
――あたし達は最後のキスをする。
侑京と交わした最後のキスは、どこまでも優しくて愛しさを含んでいるように感じた…。
これが、最後。
これで、最後。
侑京、あなたと過ごした時間をあたしは忘れないよ。
惹かれ合う前に戻っても、話すことなんてなかった日々に戻っても。
―――侑京を忘れたりしない。
あたしの心が侑京を忘れるわけないよ…。
「凌、愛してる――……」
触れ合った額から感じる侑京の吐息。
最後だと言ったのに、もう一度キスをした。
「………っ…泣かないで…」
キスした時に侑京の涙があたしの頬に落ちて来て、口をついて出た言葉。
明日からも、ずっと笑っていて……。
あたしがいない日々を悔やんだりしないで……。
誰より、幸せになって―――……。
「……ずっと、っ幸せでいろよ……」
「……うん…」
言葉を詰まらせる侑京に頷くことしか出来ない。
――……あたしはもう、幸せになんてなれない。
侑京を騙して、莉人くんを傷付けて、あたしはもう幸せになんてなれない――。
幸せになる資格なんてないんだよ――。
侑京といた時間は、日々は、とてつもないくらい幸せに満ち溢れてた。
「……侑京と出会えて幸せだよ。 あたしを愛してくれてありがとう…。 あたしに愛されてくれて……ありがとう…」
侑京と一緒に過ごした日々を、時間を宝物にするから…。
「―――サヨナラ、凌」
「―――サヨナラ、侑京」
「「……愛してたよ」」
あたし達は涙を流しながら笑い、同じ言葉をお互いに放つ。
もう二度と戻れない日々に背を向けて。
もう二度と戻らない時間を愛しく思う。
ありがとう、侑京――……。
あたしは、心から侑京を愛していました。
ごめんね。
ありがとう。
―――……サヨナラ、あたしが2番目に愛した人。
.