それが君の願いなら。



涙を必死に堪えながら侑京の目を見て言ったあたしに侑京は何も言ってくれない。


ただ流れる沈黙。


それは居心地悪いわけじゃないのに、なんとも言えない雰囲気で。


侑京と一緒にいてこんな沈黙は多分初めてだ……。


あの、そう言おうとした時、侑京が「莉人くんが好きなの?」と聞いてきた。


今にも泣き出しそうな声で、あたしが先に泣いちゃいそうなくらい悲しい声だった。


「………好きだよ…」

「―――そっか…」


力なく首を垂らした侑京に「でも、」と続ける。


「あたしは、同じくらい侑京が好きで大切だよ」

「………ふっ、何それ」


寂しそうに瞳を揺らして笑う侑京を見てると本当に泣いてしまいそう…。


だけどあたしが泣くわけにはいかない…。


ちゃんと、侑京と別れるまでは泣かないって決めてるから――。


「あのね……少し長くなるかもだけど、聞いてくれる…?」


ちらりと侑京を見れば「うん」と聞いてくる。


さっきまでの表情が嘘みたい。あたしがずっと好きだった優しい侑京の表情で、首を傾げる。


それはきっとあたしを安心させるためなんだと思う。


いつも通り、何も変わらないあの頃みたいに訊ねてくる。


だからあたしも、普段と同じように頑張って返した。


「侑京には一目惚れで、気付いたら急激に仲良くなってて、付き合うことが出来て…。もう恋なんてしたくないって思ってたあたしが侑京に惹かれたのは、莉人くんと似てる部分があったからだと思う…」

「……じゃあ、ずっと俺に莉人くんを重ねて見てたんだ…?」

「―――……ううん、それは違う。侑京と莉人くんが似てるとは思ってたけど、重ねたことは一度もないよ」

「………ただ、莉人くんを忘れられなかっただけ、か…」

「………うん……」


侑京の言葉に頷く。


莉人くんを忘れられるわけなくて。


誰より好きだったから。
誰より好きだから……。


それでも侑京に惹かれて、好きになって、付き合い出したあたし。


それがいけなかったんだよね…。


ちゃんと、莉人くんを忘れるまで、思い出さなくなるまで誰とも付き合っちゃダメだったんだ……。


付き合ったとしても、侑京に言えば良かったね。


莉人くんを忘れてない。
莉人くんを忘れられない、って。


そしたらこんな風になることもなかったと思う。


全部あたしが悪いんだけど。


今更後悔しても遅いけど。


侑京の隣はツライ時もあったけど、やっぱり幸せだったから。


莉人くんといるみたいって思ったこともあった。


どうしても過去を思い出して侑京に申し訳なくて1人泣いた夜もあった。


……それでもこんなあたしと侑京は一緒にいてくれた。


それが本当に嬉しくて、幸せだったの。


だから、言えなかった――…。


このまま莉人くんを忘れたいって思ったりもしたよ。


侑京が莉人くんに会いたいって言った時、本当は止めたかった。


止めてって、あたしは会いたくないって。


それでも心は正直だった……。会いたくないなんて嘘…。莉人くんといた頃を思い出す度に愛しくて、会いたくて仕方なかった……。


3人で会うと決まった時、不安で不安でどうしもなかった。


だけど侑京が一緒にいてくれたから…。


結局2人になって、キスまでしちゃったけど……。


でも、本当は言うと、あの時からずっとずっと揺れてたの―――……。


自分でも分かってた……。こんな状態で莉人くんに会うのはダメだって…。また、惹かれちゃうって、思い出しちゃうって……。


侑京といた日々に嘘はなくて。


だから、忘れようと思った。


―――でも…無理だったの……。