《放課後、図書室で待ってるね》
《分かった》
あたしが学校に来て一番にしたこと。
大好きな、大切な人へのLINE。
昨日は莉人くんの質問を聞いて自分の考えを少しでも固めておこうと思ってたのに、結局何一つ変わらないまま朝がきてしまった。
―――ううん、変わったことはちゃんとある。
あたしの思いに区切りがついたこと。
あたしの思いがハッキリしたこと。
だからと言って泣かないなんて出来そうにもないけど…。
そして今はまだ1限目が終わったばかり。
次の授業は――あれ、なんだっけ?
まあいっか。次は出ないし。
あたしは1人体育館裏で寝そべり、のんびりとした雲を見上げている。
どこまでも続く雲はお気楽でいいな…。だけど怒ったりするから雨が降るんだよね。機嫌がいい時があるから晴れなんだよね。
そんな事を思うあたしの脳内はかなり幼稚な気もするけど……。
少し肌寒い風が今日は心地よくて。
眠くなってくる……。
「寝たら帰るよ」
「――あっ、来た」
ゆっくり上半身を起こしたあたしの前には侑菜。
寝たら帰るって……相変わらず真面目だな…。
そう思っていると「まぁ遅れたの侑菜だけどー」なんて言ってふっと笑みを零す。
そんな侑菜にあたしも「眠くなってた」と冗談を漏らした。
「で、何、どうしたの」
あたしの横に座るなり話を切り出してくるから、残りの授業戻るつもりなのかな?なんて思う。
「……あたしね、侑京と別れようと思う」
「―――うん……」
奥二重の目を大きくさせたあと、静かに頷いた侑菜は、あたしの気持ちを分かってたのかな…。
普通驚くよね。
それとも、侑菜だからかな?
「あたし、莉人くんが好き――」
吐き出した答えは震えている気がした。
ハッキリ伝えた。
それでも胸が痛くて、息苦しくて、ほんと情けない…。
泣きそうなあたしを横から抱き締めてくれた侑菜に涙が零れた。
「なんとなく分かってたよ。最近の凌は莉人くんの話ばかりだったし」
「―――無意識だった……」
「ふっ、知ってる。その答えが本音なら、応援だけする」
「…本音、だよ……」
「分かってるって。だから、頑張れ」
暖かい言葉に涙は止まらなくて。きっと、なんで?って、何かあった?って聞かれると思ってた。
あたしが莉人くんとしたことは世間一般で言う浮気なんじゃないかなって思うの。
悪いことしてるって自覚もあるから。
だけど、それは侑菜より先に言わなくちゃいけない人がいると思ったから…。
謝って、ちゃんと言わないといけない言葉を告げてからだって思ったから…。
だから、それまでもう少し待っていてね。
もう、隠し事なんてしない。
あたしは、誰より莉人くんが好き。
この答えが間違いだったとしても、もう迷わない。迷いたくない…。
でも、莉人くんを傷付けるあたしだから……。
「……榊にはいつ言うの?」
「…今日の放課後」
「そっか、帰り一緒に帰る?」
「ううん…大丈夫、ありがとう…」
あたしを心配してくれてる侑菜に感謝しながら断った。
今日は、誰の力も借りずに自分で乗り切るって決めてるから…。
莉人くんにも、ちゃんと自分の思いを伝えるって決めてるから。
先に侑京に言わなくちゃいけない。自分の中で何度も何度も繰り返した言葉。
それをハッキリ、伝えなくちゃいけない……。
傷付くのはあたし1人でいいはずなのに、どうして人間はこんなにも残酷なんだろう。


