そんな場所で泣いていいわけない。
あたしは、泣く資格なんてないないんだから…。
強く噛んだ唇が痛かったけど、それ以上に胸が痛くて。
周りに迷惑かけてばっかりで、心配かけてばっかりで。
侑京も莉人くんもあたしの考えを聞かせてって言ってくれた。
侑菜も、なっちゃん達にも、あたしの本音を伝えなくちゃいけない。
あたしは、支えられてばっかりだ……。
「―――凌ちゃん?」
「あ、莉人くん…」
見上げれば莉人くんが心配そうな顔をしてあたしを見ていた。
「どうした? 気分でも悪い?」
「っううん! 考え事してたの…」
「………俺と、侑京のこと…?」
「――うん」
莉人くんの言葉に驚きながらも、隠したって通用しないと思ったから素直に頷いた。
ふっと笑った莉人くんはあたしの隣に座り、あたしを見ながら質問をしてくる。
「…何に悩んでんの?」
「………」
「俺が聞きたいから聞いてんの。普通に答えて欲しい」
黙るあたしにそう言って優しく頭を撫でてくる莉人くんに口を開く。
「……二人乗りの船が1隻あって、あたしと侑京が溺れてたらどっちを助ける…?」
あたしの質問に目を丸くさせた莉人くんは迷うことなく答えた。
「俺は凌ちゃんを助けて2人で生きていく」
「えっ、」
莉人くんの答えに思わず目を見開いた。侑京を知らないなら兎も角、一応会って話したことあるのに…。
表情に出ていたのか、少し笑いながら莉人くんが言う。
「だって、俺から見ても侑京から見てもお互いライバルで邪魔なわけだし。それに俺は凌ちゃんがいるならそれだけでいい」
「……そっ、か…」
ハッキリ自分の意見を言える莉人くんがすごいと思った。
いや、あたしが相手だからかな…。
人見知りな莉人くんは自分の意見を持ってても、そうそう人には言わないような人だから。
「――凌ちゃんは、俺と侑京を助けて1人死ぬだろな」
「……っ、」
「それくらい分かるよ。凌ちゃんが考えることくらい、分かる」
優しく微笑みながらそう言う莉人くんに目頭が熱くなる。
あたしが目を閉じた時いつも真っ先に浮かぶのは莉人くんの笑顔だった。
それは侑京を好きになった時も、侑京と付き合い出してからも変わらなくて。
それが答えなんじゃないかって言われると納得する部分もあったし、まだ忘れられてないだけだよっても思った。
だけどね、今はそうじゃないって分かるよ。
莉人くんも侑京も心から大切で、大好きで。
侑菜やなっちゃん、樹英たちとはまた違ったように大好きで。
嘘なんてない。嘘つく理由がない。
みんな同じように大切。大好き。
だからこそ今分かったよ。
あたし、本当は自分でも気付かないくらい好きで好きで仕方なかったんだ――…。
きっと、ずっと、変わらない。
この世界で独りぼっちになったとしても、きっと変わらないと思うよ。
同じように好きだけど、気付いてしまったから。
同じように大切だけど、分かってしまったから。
だから、本当の想いを伝えなくちゃって思うの。
明日になったら、ちゃんと言うね。
泣いちゃうかもしれないけど、そんなのどうだっていい。あたしの思いを伝えるから。だからせめて、あなたは泣かないでいて下さい――……。


