莉人くんの温かさが残る顔を仰ぎながらこれからのことを考えた。
あたしが最初にしなくちゃいけないのは侑京との関係をどうするかという事。
だけど自分から侑京に何を伝えればいいんだろう……。
莉人くんが好きって事?
莉人くんとキスした事?
――それを伝えてどうするの?
だって、莉人くんを好きでも侑京を好きな気持ちだって嘘じゃない。
あたしは、どうすればいいのかな…。
1人でモヤモヤ考えても仕方ないよね。
あたしは部屋に戻りスマホを手にした。LINEで侑菜とのトークを開き、とりあえず相談してみることに。
………なんて言おう…。
まずあたしが莉人くんとこうしてキスしたことは誰も知らないわけで。
前回の時のことは知ってるかもしれないけど、侑京しか知らない可能性だってある。
「ど、どうしよう……!」
1人で考えても仕方ないと思ってたけど、何の状況も伝えてない親友にいきなりこんな話、出来ない。
「はぁー…」
盛大な溜め息を部屋に残したままリビングに戻った。
普段定位置のソファーに座り、録画していた音楽番組を見始める。
大好きな音楽を聴きながらも、頭の中では侑京や侑菜になんて伝えようか考えてる。
とりあえず侑菜に1から説明しないとね…。
怒る、よね……。侑菜は基本ドライな対応だけど、ちゃんと叱ってくれるし、一緒に喜んでもくれる。
過ごしてきた時間が長い分"あたし"って人間を分かってるんだ。
だから怒ると思う。ダメだって、しっかりしろ!って。
だから今のうちにある程度は自分の考えを固めておかないと。
まず始めに、あたしは侑京と付き合ってて。それは半端な思いなんかじゃない。本当に侑京が好きなの、心から。
だけど、莉人くんと会ったあの日、あたしは確かに揺れ始めた。
それは莉人くんを忘れたことがないから。
別れてからもずっと、莉人くんはあたしにとって大切な存在だったから。
久しぶりに会ったとき、今まで閉じ込めてた想いが一気に溢れ出して…。好きだって思ってたけど、それは大切だと思うからこその感情だと思ってた。
だけど、なんか違う…。
やっぱりあたしにとって莉人くんは大切な存在だけじゃなかった。好きって言葉だけで片付けられるような人じゃなかった。
本当に本当に好きだと思った……。
じゃあ侑京は―――……?
好きなことに変わりない。なのにどうして…、こんなに胸が痛いんだろう……。
よくある、崖に侑京と莉人くんの2人がいてどちらを助けますかって言う質問。今のあたしにピッタリだ…。
あたしは、どっちを助けるのかな…。
難しいな――…。 二人乗りの船が1隻あって2人が溺れています、どちらを助けますかってやつなら簡単なのに。
そしたら迷わず2人を助けてあたしが死ぬ。
だけど現実はそんなに甘くない。2人を選ぶなんて出来なくて。
あたしだけが楽になるなんてもっと出来るわけなくて。
自業自得だって分かってるんだけどな…。
好きだって気持ちは変わらない。同じように2人が大切で、大好きで。
「……っ…」
なんですぐ泣きたくなるの…。強くなりたいのに…。泣きたくなんかないのに…っ。
どうして、どうしてあたしは――っ…!
ソファーの上で蹲り、膝に顔を埋めた。
お母さんが、麻衣ちゃんがいるこんな場所で泣けるわけない。
莉人くんだってきっともうすぐお風呂から上がる。


