それが君の願いなら。



「………」


温かい湯船に浸かってるだけでさっきまで泣きそうだった気持ちが落ち着いてくるから不思議。


生まれ変わったら湯船になりたいな……。


「ふー……出よ…」


お風呂から上がりササッとパジャマに着替えてリビングに戻った。


あたしがお風呂に入ってる間にお父さんと恵五くんのお布団も用意されていて、2人は兄弟のように眠っている。


いい歳したおじさん2人があんなに仲良いなんて、それもそれで不思議な話なようにも思うよね…。


まぁ幼馴染みだし、普通なのかな…。


だけどもしお父さん達の片方が女の人だったらどうしたんだろう…。


今でも同じようにいられた? そんなこと出来ないでしょ? だって幼馴染みでも男と女だよ?


あたしと莉人くんだって幼馴染みだけど、男と女だから付き合って別れたんだよ…。


―――なんて意味の分からない自問自答を繰り返す。


いい加減にしなよ、あたし。


もう、侑京を傷付けることも莉人くんを傷付けることもしたくない。


腹を括って。 ちゃんと自分の気持ちと向き合って。


―――……自分の口から本当の想いを2人に伝えなくちゃ…。


ソファーに凭れながら適当にテレビのチャンネルを変えていると、すぐ後ろから名前を呼ばれた。


「――あ、おはよ…って言っても夜だけど」


莉人くんに向かって笑えばふわっと柔らかい笑みを返され、心臓がキュッとなる。


起き上がろうとしない莉人くんはまだ少し眠そう。 ……寝惚けてる…? それが可愛くて甘えたくなった。


自分に甘いから人にも甘えちゃうのかな…なんてバカな事を考えながらソファーに肘を付く。


「もうすぐ日付変わる時間だけど、お風呂入る?」

「……ん、入る」

「あたしもさっき出たんだよ」

「……髪、濡れてんね…」

「乾かさないでリビング来たから」

「……色っぽい、可愛い」

「〜っ!?」


寝惚け眼の莉人くんの言葉に顔が赤くなっていく。


普段から寝惚けることが多い莉人くんだけど、ここまでだっけ…!?


思わず俯いたあたしの頬を莉人くんの右手が撫でる。


「っ、」

「……キス」

「っへ!?」

「……したい」

「〜〜っ!!」


何も言えないあたしはまた俯いてしまう。


莉人くんの細くて綺麗な右手があたしの頬から顎へと降りていく。


「――っ!」


息つく暇なんてない。


あたしは莉人くんに溺れていくだけ。


「……ふっ…りひっ…とく…ん…」


離れた唇はもう一度唇へ行き、そしてあたしの首に降りてきた。


「んっ…莉人っ…くん……」

「っごめん、やりすぎた…」


パッと離れた莉人くんはソファーの上で体勢を整える。


なんとなく赤い頬に不思議に思いながら、ジーッと莉人くんを見つめる。


「……っなんですか」

「なんかほっぺ、赤い?よ?」

「……誰かさんがエロいからじゃないですか…」

「えっ、あたしですか!?」

「今キスしたのは誰だよ…」


そう言ってどこか悔しそうな顔をして立ち上がった莉人くんを座ったまま見つめ続けた。


「っ下から見んな!」

「えぇ!?」


怒られたあたしは仕方なくテレビに視線を移し、莉人くんはやっぱり様子がおかしいままお風呂に向かった。