―――んっ…んん……?


暗い部屋の中、ベッドから体を起こし辺りを見回すも何も見えない状態。


枕の横に置いてあるスマホを手にすれば、画面の明るさに思わず目が眩んだ。


……22時36分か…。


いつの間に寝ちゃったんだろう…。莉人くんの声が、寂しそうな声が、顔が、頭の中で延々と繰り返されてる。


あんな顔させたくないのに。 そう思ってもその原因を作ってるのは自分だと知っていながら甘えてしまう。


弱いな、あたし……。


はぁ、とついた溜め息と同時に部屋を出る。


薄暗い廊下がどことなく不気味に思えて足早にリビングへ向かった。


明るい声が漏れている扉を開ければ暖かい空気が充満している。


「あ、凌、起きた?」

「………うん」


お母さんの言葉に小さく頷きながらキッチンへ向かう。


まだ少し寝惚けてるのかな、なんて感じながら冷たいお茶を体に流し込む。その冷たさに目が冴えた気さえする。


ボーッとする頭でソファーに向かい体が跳ねた。


ソファーに横になって眠っている莉人くんを見たから。


ドッと押し寄せてくる罪悪感に涙が出そうになる。


あたしが弱いから莉人くんを傷付けちゃうんだ…。


ソファーに凭れるように座り、久しぶりに莉人くんの寝顔を見た。


「……可愛い…」


呟いた言葉は誰かの耳に届くわけでもなく宙を舞う。


昔から莉人くんの寝顔が可愛くて好きだったな…。


どちらかと言えば可愛い顔をしてて。たまに男らしくなるのが心臓に悪くて。


だけど寝顔は本当に可愛いの。


「――ふっ」


思わず零れた笑みは本当に無意識で。


こんな時間がとても愛おしく感じる。


莉人くんの寝顔を見たあと静かに立ち上がり、お母さんに声をかけた。


「……今日麻衣ちゃん達泊まるんでしょ?」

「そうよー。 ……そろそろお布団の用意した方がいいかなー?」


お母さんの言葉にリビングを見渡す。


テレビの前で仲良さげに寝てるお父さんと恵五くん。


麻衣ちゃんはまだお母さんと飲んでるし、悠ちゃんはどことなくウトウトしてるようにも見える。


「…悠ちゃんの布団だけ用意しとけばいいんじゃない?」

「んー……悠ちゃん、寝る?」

「んー………んー…寝る……」

「あははっ、今お布団敷くからちょっと待ってね」


そう言ってお母さんは悠ちゃんの布団を用意しにリビングを出た。


少しして立ち上がった眠そうな悠ちゃんに「おやすみ」と声をかければ「…すみ…」と小さく返ってきた。


悠ちゃんを見送ったあとあたしは部屋に戻りお風呂の準備をして下に降りる。


もう23時くらいだけど、やっぱりお風呂は入るものだよね。


独り言のように呟きながら一度リビングを覗いてみる。


ソファーで眠ってるであろう莉人くんに思わず顔が綻ぶ。


脱衣所に向かい今日1日を振り返れば、侑京からのプロポーズを浮かんだ。だけどほぼ同時に、莉人くんの泣き顔も頭に浮かぶ。


ハッキリ出来ない自分に嫌気がさす。


初めて心から好きになった莉人くん。別れてからも忘れたことなんてなくて。忘れられなくて……。


2年ぶりに会った時は本当に本当に嬉しくて。


だけどこんなあたしを好きだと言ってくれたのは紛れもなく侑京で。


莉人くんと別れた時の話を聞いても引いたりしなかった。あたしが莉人くんに会いたいって言っても笑ってくれた。


あたしを支えてくれてるのは侑京。……だけではない事を、痛いほどに実感してる…。