ポツリポツリと話す俺を見て真湖ちゃんは、


「じゃあ、今日ここに来た理由は?」


と訊いてくる。


――今日、ここに来たのは、凌ちゃんに、俺が会いたかったから…。


電話の向こうで一人泣いてる凌ちゃんを、これ以上一人にしておきたくないとそう感じたから。


でもそれは俺の勝手な思いからきたもので。


「俺はやっぱり凌ちゃんを傷付ける事しか出来ないんだよ…」


泣きそうになった俺はグッと唇をかんだ。


こんなとこで泣きたくねえよ…。俺がなく必要ない事も分かってる。俺より凌ちゃんの方が泣きたいって事も分かってる。


だから俺は泣かない。


「凌がそう言った?」

「…えっ、」

「莉人は凌を傷付ける事しかできないって言ったの? 違うでしょ? 凌がそんな事言うと思うの?」

「……思わねえよ…」

「あんたは、真湖たちが知らない凌の事だって知ってるはず。それなのに莉人が凌を信じないでどうするの? 莉人が誰より凌を好きでいてくれてる事、真湖も尚くんも昔っから知ってる」

「……っ…、」


優しい笑顔の裏はきっと醜い感情も怒りもあるはずなのに。


それでも俺を信じてくれてる真湖ちゃんと尚くんに涙が出た。


俺の意思とは関係なく。


「…くっ……っ…」


声を押し殺す俺を優しく抱き締めてくれた真湖ちゃんの腕はなんとなく凌ちゃんと似ている気がした。


そう感じた途端、凌ちゃんが恋しくなって。


今すぐにでも凌ちゃんを抱き締めたいと思った。


「莉人一人が苦しまなくていいの。今でもずっと凌を好きなら、一緒に苦しんで、一緒に乗り越えて行ってあげて…」

「……っ、うん…」


俯きながら涙を流す俺俺ティッシュを渡してくれた尚くんも同じように笑ってくれていた。


それが本当に嬉しくて。


幸せだなって。 凌ちゃんが運んで来てくれた幸せなんだろうなって。


そう思いながら2人に笑って見せた。


「さ! 残りのご飯もいっぱい食べなさいねー!」


そう言い残して俺から離れていく真湖ちゃんにありがとう、と呟いた。


しばらくして風呂から出て来た悠斗は、どこか嬉しそうに俺の元へ駆け寄ってきた。


「りっくんりっくん!」

「んー?」

「今日どこで寝る!?」

「んー……まだ未定?」

「じゃありっくんは凌ちゃんとね!」

「……っ、は!?」


驚いて隣に座る悠斗を勢い良く見れば大声で笑われた。


なんだかそれが恥ずかしくて軽く頭を叩いたり。


「りっくんは昔から凌ちゃんとセットじゃん!」


そう無邪気に笑ってくる悠斗でさえも、俺の気持ちに気づいてなかったたんだろうな…。


そう思うとやっぱり嬉しくて。一人抱え込まなくていいんだと言われてるように感じた。


凌ちゃんが言葉に出来ない分は俺がなるべく伝えてやる。


一緒にいれる限り、俺は凌ちゃんを一人にしない。


凌ちゃんを泣かすことがあっても、一人で泣かせたりしねえよ……。


俺はいつだって、凌ちゃんが何より誰より大切だと思うから。


過去を一緒に歩いて来た俺たちなら、これからの未来だって一緒に歩いて行ける。


そう信じてる。


誰より愛しい人の側を離れたくないと感じた、16歳の夏。

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