「あら、凌は?」

「寝た。なんか色々疲れてたんだろ」

「ふぅーん……ご飯は?」

「あー…貰おうかな…」


リビングの扉を開けた俺に真っ先に気付いた真湖ちゃんが声をかけてきてくれる。


テレビの前のソファーには、父さんと尚くんが何やら盛り上がった様子でいる。


真湖ちゃんはキッチンで俺の分のご飯を用意してくれてる途中。


「………母さんと悠斗は?」


見当たらない2人を不思議に思いながら真湖ちゃんに訊ねた。


「悠ちゃんはお風呂。麻衣ちゃんは明日の朝ご飯の買い物行ったよ」


その返答に思わず顔を顰めた俺。


明日の、朝ご飯の、買い物……?


なんか嫌な予感するのは気のせいか?


そんな俺の表情を見てニヤリとした真湖ちゃんはどこか嬉しそうに言う。


「今日はみんな泊まりよ泊まり!」

「……やっぱり…」


母さんがこの家に夕方以降に来て買い物へ出掛けた時。それはこの家に泊まることを示していた。


俺の知る限りこの2年間はそんな事なかったはず…。


急に何考えてんだよ…。


思わず零れた溜め息に父さんがこちらを振り向いた。


「莉人ぉ〜! 良かったなぁ、泊まれて!」


酔っ払いに絡まれた事に迷惑をしつつ「どこが」とそっけなく返す。


そんな俺の返事を気にすることもなく今度は尚くんが続けた。


「凌とヨリ戻したんだろ〜?」

「…………は?」


予想外な尚くんの言葉に一瞬思考が真っ白になった。


何、それ。どういう意味。


おかしいだろ、そんなの…。なんで俺のこと憎んでないの?


大事な娘を傷付けた男が目の前にいんじゃん。


いくら中坊だったって言っても傷付けたことに変わりはなくて。


親ならもっと叱るべきなんじゃねえの?


ポカンとする俺は、後ろから真湖ちゃんに呼ばれてもその場から動けなかった。


恐る恐る振り返った先には笑顔の真湖ちゃんがいて。


目の前には嬉しそうな顔して笑ってる父さんと尚くん。


いやいやいや…マジで、何。


困惑気味の俺に、


「莉人、とりあえずご飯食べなさい」


そう言った真湖ちゃんに従う。


普段より豪華な梅原家の食卓。だって今日は凌ちゃんの誕生日なんだから当たり前だろ。


――そんな事を頭の隅で思いながら目の前に座った真湖ちゃんに声をかけた。


「……真湖ちゃん…」

「んー?」

「……なんで?」


テレビから俺へと視線を移し、凌ちゃんとよく似た優しい笑顔で俺に言った。


「今日までのこの2年間、莉人は何を思いながら過ごしてたの?」


―――……今日までの2年間……。


一度だって凌ちゃんを忘れたことはなくて。嫌いになるなんて尚更無理で。


自分のした事にひたすら後悔の日々だった。


大切な人を傷付けた。泣かせた。誰より愛しい人を、俺自身が傷付けた。


それが許せなくて、どうしようもなくて。会いたくて仕方ない思いを隠しながら、会いたくないと自分に言い聞かせていた。