「っあたし…う、侑京が好きっ……」
「……うん…」
「…だけどっ……莉人くんを、っ離すことも出来ない…っ……」
「…っ、」
泣きながらそう言うあたしを強く強く抱き締める手。
この手はいつだって優しくて、温かくて…。
だからあたしは離れられないんだ……。
莉人くんの優しさに甘えて、莉人くんの言葉が嬉しくて…。
「侑京と同じくらい…っ莉人くんだって好きなの……っ…」
誰より大切で、大好きで。忘れたことなんてない。忘れられない。それくらいあたしの中には莉人くんがいるの。
侑京がどうとかそう言うんじゃなくて、本当にどうしようもないくらい、莉人くんの側にいたいの…。
侑京はどうするの?って。別れるの?って聞かれてもノーとしか言えない。
だけど莉人くんと付き合うかって聞かれても何も答えられない。
侑京の優しさにも莉人くんの優しさにも甘えてるあたしは自分の気持ちが分からなくて…。
だからと言って2人を手放すことも、どちらかと離れることも出来ない。
最低で最悪なことくらい、自分が一番分かってる。
それでもどうしようもないじゃん…。
2人共同じくらい大切で大好きなんだもん……。
「あたしはっ………」
「凌ちゃん! 侑京と一緒に居ていい……でも、俺とも一緒に居て…」
「っそんな事!」
出来ない。そう思いながら口に出せないのは心のどこかで嬉しい自分がいるから。
―――あたし…どれだけ自分に甘いの……。
侑京と別れないまま莉人くんと一緒に居れば、莉人くんを傷付ける事は百も承知なのに…。
同じように莉人くんと一緒にいれば侑京が傷付く事は目に見えて分かってる…。
それでもあたしは自分の為に…自分の可愛さ故に2人を利用してるんだ……。
「――っ、」
侑京と別れたくない…っ。本当に好きなのっ。大好きで、失いたくない…。だけど……莉人くんを好きだと思う気持ちにも嘘はなくて…。
「ごめん…っ。俺は凌ちゃんが泣くの分かってて――」
「違うっ! 莉人くんが悪いんじゃないっ…! あたしが悪いんだよ…っ…」
だから謝らないで。
これ以上、莉人くんは傷付かないでっ…。
悪いのはあたしだけでいい。莉人くんを巻き込んでおきながら言えた台詞じゃないけれど。
「……泣きそうな顔しないでっ…」
泣きながら莉人くんの両頬を包むあたしに莉人くん困ったように笑う。
「…泣いてる凌ちゃんが言うなよ……」
「それでもっ、莉人くんには泣いて欲しくない……」
あたしは莉人くんの笑顔が好きだよ。優しくて、少し悪戯っぽく笑う顔が好き。
恥ずかしがり屋なのに、意味分かんないところでストレートなところ。
人見知りなのに、打ち解けると大きく口を開けて笑うところ。
悠ちゃんに優しいところも本当に大好きだよ…。
今、側にいてくれてありがとう……。
あたしの為に走って来てくれてありがとう……。
……っごめんなさい…。
侑京、嘘ついてごめんなさい。ちゃんと莉人くんに断るって言ったのに、約束したのに、守れなくてごめんなさいっ…。弱いあたしを憎んで、恨んで下さい…。
それであたしと別れたいって、別れてって言って…。
あたしから離れるなんて出来ない…っ。
莉人くんも、早くあたしを嫌いだって言って…。もう、好きだなんて言わないで…。
莉人くんが、侑京が離れたいって言ってくれないとあたしからは離れられない……。
最悪なあたしに気付いて――っ。
侑京になんて言えばいいのっ…。言わなくちゃいけないのに、嫌われたくない。こんな最悪なあたし、知られたくないっ――。
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