――コンコン、とノックされた扉。
そしてさっきまで電話の向こうで聞いていた声があたしの名前を呼ぶ。
腹を括ったあたしはどうぞと呟く。
ガチャッと開いた扉の向こうには少し息を乱した莉人くんが立っていた。
2週間ぶりくらい、かな。
たった2週間。会わなかった2年間よりも長く、懐かしく感じるのはどうして…?
部屋に入って来るなり莉人くんは静かに微笑む。
「この家も、この部屋も、久しぶりに来た」
そう言う莉人くんは本当に懐かしそうで。
その優しい微笑みにあたしはまた泣きそうになった。
グッと唇を噛み下を向くあたしに莉人くんが近付いてくる。
「凌ちゃん」
その声はどこまでも優しくて、あたしを安心させる。
恐る恐る顔を上げれば、莉人くんの困った顔が近くにあって。
「断られる前に来た」
「…やっぱり、分かってたんだ……」
「ごめん。それでも俺は凌ちゃんに会いたかったよ」
「……」
すぐそういう事言う…。莉人くんの悪い癖だね。
莉人くんと付き合う前はよく惑わされてた。
そんな事を思いながら「帰って」、そう言おうと口を開いた時。
少し慌てたみたいに、無理矢理聞かないようにするみたいに、莉人くんが言った。
「っ凌ちゃんが1人で泣くのはもう見たくない…」
「………」
「侑京がいない時。侑菜ちゃんがいない時。俺を呼べばいい…」
「……莉人くんだって夏休みが終わればいなくなるじゃん…」
「――……寂しい?」
「……」
どさくさに紛れて聞いてくる莉人くんに少しだけ嫌気がさした。
どうしてそんな事聞くんだろう…。
あたしには侑京がいるって知ってるのに。分かってるのに。
……ううん、それはあたし自身も同じ。
莉人くんの言葉に甘えたくなるのは、莉人くんが優しいから。
あたしを求めているのが分かるから……。
「っ!」
俯くあたしの頬に莉人くんの右手が触れた。
その手はぎこちなくて、躊躇ってるみたいに感じる。
莉人くんはどこか泣きそうな顔で笑ってて。
「……やっぱり、侑京がいい…?」
「…っ……、」
その言葉に、泣きそうな顔に、あたしの視界が揺れる。
どうしてあたしはいつも大切な時に泣いちゃうかな――。
今あたしが泣くと莉人くんが困るって分かってるのに…。
そんな意思と関係なく涙は零れて。
案の定莉人くんは困ったように、ぎこちない手であたしの涙を拭う。
「…うっ……」
漏れてしまいそうな嗚咽を必死で抑える。
泣きたくない。泣く理由なんてない。
そう思えば思うほど涙は溢れていく。
「……りっ…ひとくん…っ…」
「ん?」
「抱きっ…着いていっ……い?」
我慢出来ずにそう言った瞬間あたしは莉人くんの腕に包まれた。
「……どうした」
そう言って優しくあたしの背中を擦ってくれる莉人くん。
もう…無理だよ…っ…。
自分が嫌になる。嫌で嫌で…涙が溢れる……。


