それが君の願いなら。



ベッドに置きっぱなしのスマホには莉人くんからの返事が来ていた。


《誕生日おめでとう。悠斗たち来た?》

《うん、来てくれてるよ。ありがとう…》

《俺はもう凌ちゃんの誕生日を直接祝えないから。これからは悠斗に頼むよ》


……どうしてそんな事言うの…。


寂しいじゃん…。これからも、今までみたいにお祝いしてよ…。


なんて我が儘言えない、言えるわけない。


喉元まで出て来た言葉を飲み込むようにベッドに倒れ込んだ。


どうしてあたしはこんなに我が儘で優柔不断なのかな…。


莉人くんにお祝いして欲しいって、直接おめでとうって言って欲しいって感じちゃうのかな……。


―――侑京がいるのに。


あたしはいつになれば莉人くんを卒業出来るんだろう――…。


侑京が好き。大好き。なのに同じように莉人くんが大切で…。


莉人くんの返事に迷いながらゆっくりと文字を打つ。


《……少し話せる?》

《うん》


すぐ返ってきた返事を確認して通話ボタンを押した。


―――プルルルル…


『もしもし』


「ふふっ、早いね」


ワンコールで出てくれた莉人くんに思わず笑みが零れた。


『凌ちゃんからの電話だからな』

「……何それ…」


相変わらず少し天然な莉人くんに上手く返せない。


分かってる、この人はそう言う人なんだって。


理由なんてない。天然だから簡単にそんな事言うんだって。


頭では解ってる…。


「―――……っ…」


それでも心は正直で、素直で。涙が溢れた。


『――なんで泣くの…』

「……泣いて、ないよ…」

『…俺が分かんないと思うの?』

「………」

『――俺まだ夏休みなんだけど』


突然の莉人くんの言葉にベッドの上で首を傾げながら「うん?」と応える。


『…今どうしたい気分?』


そう聞かれてなんとなく分かった。


泣いてるあたしに気付いて、どうしたいか聞いてくる。


だけど甘えちゃいけない。莉人くんには、甘えちゃいけないの…。


「ふっ、何それ」


意味分かんない。そう続くように鼻で笑う。


どうして気付いちゃうんだろう。そう考えながらあたしが思うこと。


……莉人くんに会いたい。


本音は口に出来ない、出来るはずないよ。今だけでもいいから、なんて都合のいい事はもっと言えない。


そんなあたしに莉人くんは尚も続ける。


『今から家行くわ』

「…え、なん」

『会いたいから』

「っ、」

『俺が、凌ちゃんに会いたいから』


来ないで。そう口にする前にプツッと電話が切れた。


あたしが言う事を分かってたみたいに。


どうしよう……莉人くん家と家はそんなに遠くない…。莉人くんが走れば5分程で着くはず…。


居留守は使えないし…。


今から侑菜の家に行く? ううん、そしたら鉢合わせになっちゃう…。


部屋をうろうろしながら考えているとピンポーンと家のインターホンが鳴り響いた。


ビクッ!と跳ねる体。


タンタン――と階段を上がってくる足音。


……もう、逃げられない…。