それが君の願いなら。



莉人くんとは付き合いが長いから。


侑京より、一緒にいた時間が長いから。


だから、分かるの。


それに、昔莉人くんが言ってくれた。「凌ちゃんが傷付くのは見たくない」って。


嬉しかった。あの時を思い出すだけで心が温かくなる。


床に視線を落とし、口を固く結んだ。


「――ねぇ、悠ちゃん」

「何?」

「あたしへの誕プレは…?」


徐々に顔を上げ、いつもと同じ笑顔を向けた。


悠ちゃんは少し驚いたみたいに目を見開き、ニヤッと口角を上げて言った。


「ない」

「許さない」

「今度ね。なんか考えといて」


そう言って自分の定位置に戻って行く。


麻衣ちゃん達はあたしと悠ちゃんの会話を聞きながら優しく笑ってた。


あの頃は毎日来てた田宮一家も、今では何かイベントがある時しか来ない。


あたしの誕生日に来たのは本当に久しぶりだけれど。


それでも嬉しかった。あの頃のあたしにとって莉人くんは彼氏だけど、家族も同然だったから。


それくらい同じ時間に身を委ねて来た。


笑う時も泣く時も一緒だった。


親に怒られる時も、悠ちゃんや侑菜と過ごす時も。


本当に、毎日一緒にいたから。


――こうやって莉人くんとの幸せに浸る度に涙が出そうで。


嬉しかったなって、楽しかったなって。そう感じると同時に、寂しくて、悔しくて。


だからあたしはもうダメなんだ。


いくら侑京より一緒の時間を共有していたとしても、あたしがダメなの…。


弱くてごめんなさい。莉人くんを傷付ける言葉しか言えなくて、ごめんなさい。


あたしを恨んでいいんだよ。憎んでいいんだよ。


――それでも莉人くんはきっとしない。


莉人くんもあたしを家族のように思ってくれてると信じてるから。


家族なんだから、大丈夫だって信じてくれてると思うから。


あたし達なら大丈夫だよね? 昔から喧嘩しても次の日には仲直りしてた。


家族だから、たくさんの時間を一緒に過ごしてきたから。


これからも大丈夫だとあたしは思ってるよ。


口に出して言えば怒られちゃうかもしれないね。侑菜はきっと甘い!って言って、それでもあたしの考えを尊重してくれるんだ…。


今日、侑京と愛を誓いあった。


予約だけれど。まだ、先の話だけれど。


莉人くんと出来なかった約束を、侑京としてきたよ。


侑菜たちにもちゃんと言う。今度はあたしの口から、ハッキリと。


莉人くんを傷付けると思う。


ごめんなさい。だけど、見守っていてくれますか?


あたしが自分の道を歩むところを。


莉人くんが好きだったあの頃のあたしが今のあたしを見ればなんて言うんだろう…。


「ありえない」って、「莉人くんは?」って言うのかな。


それくらいあたしにとっての幸せは莉人くんだったから。


今もきっとあたしの幸せは莉人くんで、侑京なの。


「ご馳走様。ちょっと部屋戻るね」


今日の主役はあたしだけど、少しでも早く言わなきゃいけないと思うから。


あたしはみんなより一足先に自室に戻った。