離れた目の前には綺麗に整った顔があって。
それだけでドキリとした。
見慣れてるはずの侑京の顔が、今日はなんだか違う。
いつもより男っぽくて、色気があって、異常にドキドキする…。
「もしあの時、」
「…えっ」
「莉人くんと凌が別れてなかったら今の俺たちはなかった。だから、過去の凌や莉人くんには悪いけど、本当に感謝してる」
「……うん、そうだね…」
あたしも、感謝してる。
あの日のあたしは今のあたしの言葉を聞けばきっと泣き喚くと思うよ。
過去のあたしには莉人くんしかいなかったから。
侑菜がいた。なっちゃんや樹英がいた。
それでも、あの頃のあたしにとって莉人くんは本当に誰よりも大きい存在だった。
だからきっと過去には戻れない。
18歳のあたしは"今"がとても幸せだから…。
今日、ちゃんと莉人くんに誕生日のお礼を言おう。
それで、ごめんなさいって、伝えよう…。
侑京に抱き着いて、抱き締められながら考える事じゃないと思う。
だけど、本当に決めたよ。あたしは侑京が好き。
同じように莉人くんを好きなのかもしれないけど、きっとそうじゃない。
どこかで自分でも分かってる…。
だから今日、ちゃんと自分でケジメを付けるね…。
「侑京」
「んー?」
「今日、莉人くんにちゃんと言うね」
「……っ!」
驚いたようにあたしの体をバッと離した侑京。
「だって、あたしは侑京が好きなんだもん。ちゃんと言わなきゃ」
「それが莉人くんを傷付けるとしても?」
「なんだか侑京の返事、莉人くんのところに行けって言ってるみたいに聞こえる」
クスッと笑うあたしに侑京は全力で首を振ってくれた。
うん、分かってる、ごめんね。
侑京が本気であたしを想ってくれてるの分かってるよ。
あたしだって本気で侑京を想ってるんだから。
「あたしは侑京が好きですって、莉人くんに自分の口から言いたいの」
「……っ、そっか」
何かを言いかけた侑京はそれだけを呟いた。
何を言いたかったのかあたしには分からない。
だけど、侑京か言わなくていいと思ったんならあたしは何も聞かないよ。問い詰めないよ。
侑京が話したいと、思い出した時に言ってくれればそれでいいから。
「凌は……」
「…うん」
自信なさげに俯く侑京は本当に小さな声で話し始めた。
「莉人くんのところに行くとっ、思った…」
「……うん」
そんなことない、なんて言えなかったのは、一瞬でも莉人くんを選んだ自分がいたから。
侑京はそんなあたしを見抜いてたんだと思う。
だから今こうして、本当のことを正直に話してくれてるんだよね…?
「もし凌が莉人くんのところに戻りたいって言った時、俺は笑顔で送れる自信なんてなかった…っ」
苦しそうにそう言う侑京をあたしはもう一度抱き締めた。
そんな事言わないで…。あたしだってそんなの嫌だよ。
莉人くんに戻ることを考えたけど、侑京なら引き留めてくれるんじゃないかって、そう思ってた…。