『…う?』


ニルヴァーナの休憩所で休んでいたクリスが眼を覚ます。


窓越しに空を見てもまだ月は浮かんでおり、夜がまだ終わりを見せそうにも無いと確信させる。


いつもと違い、クリスの目覚めは良かった。


『…呼ばれた』


目覚めが良い原因はコレだった。


誰かに名前を呼ばれたと同時に、どこか懐かしいような感覚が胸に広がる。その正体が自分の姉と一緒に居る時のモノなのか、また違うモノなのかはわからない。


確実なのは皇帝と闘った時に奥底から聞こえた、闇にまみれたモノではなく、光を彷彿とさせる感覚だった、ということだ。


完全に意識が覚め、寝ぐせのひどい頭をかきながらもう一度その懐かしさを思い出す。


ふとその時、無意識に自分の愛刀の方を見た。


しばらくの間、二本の刀から眼が離れない。


するとその懐かしさの輪郭が明確なものとなり、その正体が脳裏に甦る。


かつて極東の国で共に教えを受けた、もう一人の二刀流使い。


海のような青の似合う女の子が記憶の中にいた。


『今21歳だから…
 もう6年も会ってないのか』


クリスはそう呟くと刀から視線を外し、空に浮かんだ、赤く染まる月を見つめた。