captivate

重苦しい沈黙が訪れる。皇帝と皇帝の系譜を継ぐ両者はまだ睨み合っている。


４人は両者を見つめる事しか出来なかった。


そんな中で急にクリスは足元からの声に気付いた。


「シンディ…？」


力を振り絞って何か言おうとするシンディアの言葉を聞き取ろうとクリスがしゃがみ、彼女を抱きかかえた。


「帰ろ…？」


暖かい笑顔を浮かべて魔女は言う。それでもクリスから戸惑いは消えない。


「それじゃ、魔女狩りが止まらないぞ？」


そう。


この選択肢を選べば、十天の２人を救えても、多くの魔女を見殺しにしてしまう事になる。


「皇帝…私がここに残りますので…どうか…彼らはヨーツンヘイムへ…」


「シンディ！！」


クリスは赤絨毯から力無い身体を起こそうとするシンディアの肩に手を置く。


「バカな事を言うな！」


「バカな事は言ってないよ…。こうでもしないと…皆は帰れないでしょ…？」


「だけど…！」


シンディアに困惑した表情を見せる中、拍手が起きた。


その乾いた音の先には、皇帝が満足げに王座から立ち上がっていた。


「シンディア・ディエンバイム。流石は魔女を統べる十天が１人よ。何処ぞの末裔とは異なるな」


皇帝は右手を遊ばせ、クリスを見下す。


「だが…貴様の様なエサが残っても仕方がない。我が帝国が世界を手に入れるには、軍神以外は要らぬ」


皇帝は指を鳴らす。すると道を作っていた兵士が銃口を向け、クリス達を囲んだ。


「ヴァンガード以外を殺せ」


「おい…貴様ッ！！」


クリスの叫びも虚しく、皇帝の言葉を号令に銃声が部屋中に鳴り響いた。


しかし、放った銃弾の雨が届くことなかった。


「殺せないよ…。僕がいる限り」


シュバルツが手を前にして印を結んでいる。その銃弾は全て空中で静止していた。


「オラァッッ！！！」


ロックが赤絨毯に拳を叩きつけた。その瞬間、フロアがうねり、ロックを中心に衝撃波が走る。


その衝撃が、部隊を囲む兵士の大半を襲い、兵の悲鳴と共に吹き飛んだ。