イデアの森の空気が重くなる。


時の大神殿を中心にて空気が濁り、渦巻いていく。森の動物達は神殿から離れ、木々は渦巻く風に煽られながら頭を振っていた。


クリス・ヴァンガードの身体から漆黒の瘴気が滲み出す。


『ほらね?
 キミの闇に呼応して
 闇が集まり始めたよ』


ジェンが楽しそうに空を仰ぐ。


『ウゥゥ…』


身体が熱くて焼けそうになる。身体を押さえ込むように丸めることしか出来なかったが、せめてもの抵抗に、ありったけの殺気をジェンに飛ばした。


途端に身体を、大気を渦巻く瘴気が蝕む。


『ガァァッ!!!!!!!』


アリスの剣線をなぞるように、身体の内外の瘴気が混ざり合う。


『ア…アリスの…』


必死に絞り出す声に、ジェンが振り向く。


『アリスの…剣は…ッ
 俺の…や…み…を…』


ジェンは楽しそうににやついて葉巻を咥えた。


『普通の闇ならそれで祓える
 ただキミの闇はねぇ
 闇系譜によるものだ…
 大戦時に生まれた剣術では
 最近の編み出された術に
 対抗出来ないんだよ』


ジェンの言葉が終わると、瘴気がクリスの体内に侵入し始めた。


『…ッ!!!!!!!』


余りの苦痛で、声が出ない。必死に身体を抑えることしかできない程に、痛みが身体を駆け巡った。


クリスは一歩、前に踏み込んで身体を起こした。


『俺に…は…
 …誓いがある…ッ!!!
 闇に堕ち…ないで…と…
 姉さんが…言った…から…!!』


左手に氷影を握り締め、腰にある流閃を右手に握る。


『闇に…堕ちる気は…無い!!』