部屋の一室を出ると、何故か急に疲労感が来た。


『クリス!』


『姉さん』


ヴァンガード家長子のリノアが泣きそうな顔をして部屋を飛び出して来た。


『シンディとラナとニーナとクレアが
 あのね、クリスがね…』


上目使いで弟を見る姉の眼から、急にぶわっと涙が溢れた。


『ちょ…ね…姉さん?』


お気付きの方もいるだろう。


リノア・ヴァンガードは極度の心配性にしてかなりのブラコンだ。


『クリス…闇に堕ちないでね』


『…大丈夫だよ』


少し間を置いてから涙を流す姉の頭をクシャっとする。


レオン達は優しい表情で姉弟の様子を見守っていた。


『あ〜らリノア
 ま〜た弟の心配かい!?』


魔女帽を被ったジェイナがニタリとしながら茶化しに入った。


隣には頭を抱えて溜息をつくエレノアと、後悔の念が浮かぶベアトリーチェが立っていた。


『ジェイナ、姉弟の絆に
 茶々入れる物ではない』


『そーだよ…
 悪趣味、じゃないかな?』


次々にジェイナを批判する二人に勇気づけられたのか、リノアも顔を膨らませ、そーだ、そーだと反撃する。


『あーもーうっさいねぇ
 …少年、いい加減さぁ
 私のモノになりなよ』


クリスの顎を持ち上げ、濡れた眼で顔を近付けるジェイナ。


アルは咄嗟にシュバルツの眼を隠し、当人から批難を浴びる。


『ジェイナにクリスはあげません!』


姉は必死に抱き着く。


『…え?』


当事者は呆気に取られて何も言えなかった。