揺らぐ海から

海を選んだのは、好きだからではなかった。

幼い頃は、飲み込まれそうな青に恐怖すら覚えた。

底無しの闇。
何も見えなくなって、聞こえなくなって、やがて自分のことも分からなくなる。

そんな闇に包まれて、すべてを忘れて、消えてしまえたらどんなに良いだろう。
そう思っただけだった。

「何でまた、そんなこと思うんだい」

おじさんには、私がまだ声に発していない言葉まで聞こえているようだった。



いなくなりたいの、私。

「どこから?」

この、世界から。

「そりゃ、無理な話だよ。たとえ嬢ちゃんが、この海の中に飛び込んでいったとしてもな」