揺らぐ海から

「人はね、弱いから、嫌なことやキライな奴に心をすぐ持ってかれちまう。自分では気づかないうちに、それがすべてだと思いこんじまう。だから、それ以外の本当に大切なことが見えなくなっちまうんだよ。」

本当に大切なこと?

「死ぬっていうのは、人生を終わらせることだ。思いがけず死んじまう奴もいるが、自分でその時を選べたり、分かっているんだったら、どう終わらせるのが一番自分にとって幸せなのかってことを考えなきゃいけない。そんな時に、キライなことばかり考えてちゃいけないよ。それは、嬢ちゃんにとって大切なことじゃないんだからね。」

人生の終わり。
最後の最後に思うことが、キライなことばかりでは美しくない。
それは、分かる。

「嬢ちゃんだって、10年と少し生きてきて、あいつらしか得られなかったのか?違うだろう。終わらせるんだったら、もっと考えなきゃいけないことがあるだろう?」

でも、得られたものも今はもう、なくしてしまった。

「嬢ちゃん、小さい頃は何になりたかった?」

画家。

「それは、何でだ?」

絵が、好きだから。好きだったから。

「何で、絵が好きだった?何で、今は違うんだ?」

絵を描いていると、私がここに生きてるって思えたから。
言葉にできない感情を、絵でなら伝えられそうな気がしたから。

でも、画家なんかになっちゃダメだって言われたから、もう絵なんか見たくもなくなったの。
手に入らないのなら、最初からなかったことにすれば、楽だから。

私も、最初から生まれてこなかったことにすれば、楽になれるのかもしれない。

「そうか。それって、絵をキライになったってことじゃないよな?」