あの時、俺が一瞬にして好きになった女の子が、
“桐生さん”って言うのは、
サッカー部に入部してきた1年の話を聞いて、すぐに分かった。
桐生さんがグラウンドの横を通る度に、1年の男たちがコソコソ話してるから、分かりやすい。
それにしても、本当に優しい子なんだな。
「やっぱり今年の新一年の女子1位は
桐生ちゃんに決定だな!」
1年の話を聞いてた副部長3年の岡嶋は、
ケラケラ笑いながらそう言った。
桐生さんの人気は、今じゃ学校中の男子に広まってる。
そんなある日、サッカー部の1年の1人が外周中に転んだらしい。
そいつ自身が自慢気に話してたんだけど、
「転んじゃって、そしたら桐生さん来て!
ハンカチと絆創膏渡してくれたんだよ!
で、さっき返しに行ってきた〜」
とのこと。
あーあ、俺にもなんかそういう出来事ないかな。
心の中でそう思ってたあの日、
俺にもチャンスが訪れた。