幕末の雪

藤堂が生きている。


呆気に取られた顔をし、敵と自身との間に立つその人物を見上げて。


藤堂の命を絶つはずだった刀は敵の足元に転がっており、その敵の心臓には深く刀が突き刺さっていた。


背を貫通し、血を滴らせた刀。


まさか、まさか…まさか。刀を持っていないはずの、お前が。


長い髪をゆっくり靡(なび)かせ敵の心臓を突き刺していた陽は無表情。


藤堂が生きていた事に対する喜び。藤堂を助けてくれた陽には感謝するはずなのに。


何故こんなにも、理解できない疑問の念達ばかりが頭を埋め尽くす。


土方は陽を見て、たまらず俯く。


藤堂の命を救ってくれた。そんな奴を、土方は邪魔だと無防備に置いて行った。


顔向けができないと、自身を責める気持ちが沸き起こる。


陽が刀を抜くと返り血が溢れ、元々血に汚れていた服に更に赤黒い染みがついた。


「死んでないな」


抜いた刀を道端に放り投げて、陽は藤堂を振り返った。


その言葉が、藤堂を助けた行動が、新撰組の中にある陽への感じ方を全て根こそぎ変えた。


「弱いくせに頑丈な奴だ」


「…余計だよ。……陽、ありがと」


顔を見られまいと俯いた藤堂は、今にも泣きそうだった。


(何に泣けばいいんだ……)