幕末の雪

カキン……ッ!


「くっ、そぉ……!」


相手の重い刀を受け止めた藤堂は顔を歪ませた。


ずっと同じ相手と戦っているが、一向に勝てる気がしない。……いつもと、違う。


当然のこと、酔いの冷めない藤堂に本領を発揮して戦うことには無理があった。


(からだ、重っ…。相手もちょっと、ぼやけてやがる)


沖田、斎藤は早くも二人目を斬り捨てようという時、藤堂の視線の先に土方が映った。


相手と応戦しており、優位体制で刀を交えている。


だが陽を連れて隠れたはずの土方がいる事に混乱し、気を取られた藤堂を容赦無く相手が襲う。


「うわっ!」


間一髪刀で防ぐが、足元が崩れ尻餅をつく形で倒れる。


刀が音を立てて、届かないところへ転がって行った。


手伸ばしても刀に触れられない。緊張と絶望の汗が一瞬にして浮かびそうだった。


藤堂の目は見開かれ、ただ相手の姿だけを捉えている。


「「平助!!!」」


名前を呼ばれた事で、この場にいる全員の顔が頭に浮かんだ。


(死ぬ…!ごめん、皆…)


全員の目が、最後を覚悟し唇を噛み締めた藤堂の口元を映していた。


敵の刀が藤堂へと振り下ろされるが、友の最期を見せぬがように、戦う敵に視界を遮られる。


誰もその刀が斬り殺した者の最期を見届けられなかったが、自らが斬った敵の背後で、弾けるように血が舞った。


(終わっ、た……)


「平助!!!」


ゆっくりと崩れ落ちる屍(しかばね)を強引に退かして、藤堂の元へと駆け寄る。


時が止まっているようだ。


まさか、こんな形でいとも容易く……。


だが全員の目に映ったのは、まったく予期せぬ光景だった。