幕末の雪

「すまねえ…」


建物と建物の間の小さな路地へと去った土方を見届け、斎藤は敵に向き直る。


「かかってこい!」


沖田、斎藤、藤堂は率先して敵へ向かい刀を振りかざす。


高い金属音が辺りに鳴り響き、明かりのない場所での刀は怪しい色を見せていた。


ぼやけた宝石のような光り方をしていて、時折切っ先だけが白い輝きを放つ。


槍が得意な原田は少し苦労しているようだが、持ち前の怪力で相手を力で圧倒していた。


小路に逃げたことで、さらに真っ暗だった。土方の視界に入るものは目の前にある、建物の壁だけだ。


金属音を聞くだけで戦えない自分を思うと、悔しさで拳が震えた。


(仲間が戦ってるっていうのに…俺は……!)


信用していないわけではない。長年連れ添ってきた幹部隊士達の実力は自分が一番よくわかっている。


そう土方は言い聞かせるが、いつもは感じない背中の重みに苛立ちを覚えた。


“大切な物を守らなければ……”


陽を座った状態で壁に寄りかからせ、焦ったままの表情で、暗闇に一人置いていくその姿を見下ろした。


(大人しくしてろよ…)


振り返って土方は刀を抜き、来た道を足早に駆けていった。


ざ…じゃり…


土方の行った道を、誰かがこちらに向かい歩いてきている。


小さな足音は陽に気づかせないためのものだ。光の届かない平屋の隙間で、カチャリと刀を握り直す音が響く。


土方が何かを背負っていることに気づいていた一人の浪人は、土方が建物の隙間に逃げて行くこともハッキリと見届けていた。


敢えて戦闘には参加せず様子を伺っていると、しばらくして土方が一人だけで出てきた。


何を隠したかと思えば。……いい獲物を見つけたと、浪人は陽を目前にして笑みをこぼす。


そしてめいいっぱいの力を込め振り上げた刀を、陽に向けて振り下ろした。