幕末の雪

「そう言えば昔皆で夏祭り行ったよなー」


「ああ、俺も思い出してた」


藤堂の回想した過去を原田も思い出していたようで、二人はその時のことで盛り上がり始めた。


土方のミツへの想いなどもあったが、きっと京に来た今ではさすがに好いていないだろうと、誰も思い出すことはない。


ただ昔と変わらない様子で歩く三人の後ろで、他も昔と変わらなく楽しそうに思い出を語っていた。


しばらく歩き見慣れた町並みが見えてきた頃、辺りは薄暗くなり始めていた。


不気味なことはないが、人一人いない辺りに何かただならぬ空気を感じる。


勘の鋭い沖田は、神経を尖らせてその気配を察知した。


「いますね。数人…いや、十数人ほどかな」


沖田の目は光を引くように色を変え、影に紛れて怪しく睨む。


沖田ほどの剣客が漂わす雰囲気を変えれば、同じ剣客なら誰でもそれに気がつく。


否、気がつかないことができないほど、沖田からは殺気が放たれるのだ。


全員が刀に手をかけるが、土方だけは陽を背負っているせいで自由に刀を振るえそうにもない。


「出てこい!我ら新撰組が相手をするぞ!」


近藤の声を合図に、建物の影から一人、また一人と浪人風の男が現れ抜刀した。


数は十二。沖田の言った通りの人数だ。


近藤達は九人の内、土方と陽が動けない。必ず誰かが二人以上を相手するか、もしくは動けない土方が狙われるかもしれない。


それに気づいた斎藤は小声で土方に言った。


「副長、物陰にお隠れください。敵は俺たちが」


早い話陽を起こせばいいわけだが、身動きがとれないことを、わざわざ敵に知らせれば狙いの的となってしまう。