幕末の雪

「あはは!」


後ろからでも聞こえる大きな沖田の笑い声。


随分幸せそうで何より……。沖田は周りの門弟から見ればまだまだ子供で、悪戯の矛先が土方に向いているうちは、気が楽だった。


時折どうでもいい事で沢山笑うことのできる沖田を、可愛らしいと思えるほどだ。


「こら総司!そろそろやめんか」


「はぁーい。ごめんなさい近藤さん」


近藤のところまで走って戻ってきた沖田は、ハァ…と息を整えまたゆっくりと歩き出した。


随分と遊べたようで、満足そうに鼻歌を歌い笑っている。


「はあ…はあっ…はあ、はあ…」


「あれ?土方さん息切れてるんですか?おじさんだなぁ」


「うっせ…はあっ、てめえがっ…走った
、んだろが……!」


数秒遅れで戻ってきた土方は、荒い呼吸を整えながら沖田を睨みつけるのだが、全く迫力がない。


実際、逃げるよりも追いかける方が辛い。これは沖田と土方の場合だが。


「で、結局、土方さんは姉上が好きなんですか?」


答えはわかっているが、本人の口から確かめたく、沖田はニヤニヤとしながら尋ねる。


「馬鹿野郎…!」


パチン!と音を立て、土方は手のひらで沖田の頭を叩いた。


土方の顔は疲れ切っていて、いい加減にしろ。とでも言いたげな呆れた表情だった。


「いったー…!近藤さん!土方さん今僕の事叩いたんですけど!」


「歳!確かに総司も悪いかもしれんが、大人なら少しぐらい多めに見てやってはどうだ!」


「だ、だけどな…!」


「それに手を出すのはいかん!総司は仲間だろう」


叱られる土方の隣で、沖田はまた高らかと笑う。


(姉弟揃って笑いながら俺を困らせやがって……!)


何時もと変わらない様子を見て、また後ろにいた男達は楽しそうに笑った。


「何でお前らまで笑うんだよ!」


そろそろ祭り会場も近づき、遠くから太鼓を叩く音が聞こえた。


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笑顔の絶えない集団であったな、と懐かしく思う。