幕末の雪

三馬鹿は浴びるように酒を飲み、他も個人差はあるが、酒と団子を楽しんでいる。


土方は弱いのか全く酒を口にしないし、山南は水のように軽く飲むが酔う気配もない。


桜には目もくれず、ただの飲み食いになったわけだが、全員が本当の目的を忘れていた。


一人、桜の幹に寄りかかる陽は、その様子を見ているだけだ。


(私が呼ばれた意味はあるのか)


誰もそういえば、と思い出すことがなければ、陽が団子一つに手を伸ばしていな事すら気づかなかった。


陽は視線を真上にずらし、桜の花一つ一つを見つめた。


風に吹かれ花弁一枚一枚が揺れるが、団結したように五枚の花弁が繋がり、強く咲いている。


薄い桃色の花も一つでは白色に見えるほど淡いのに、幾つも集まれば濃い桃色に見えるのだ。


それには風情があり、美しかった。


陽は桜たちを見ることで、一度全てを忘れられるような気分になれた。


人間に関わるよりも自然を相手にする方がずっと気楽だと。


いくら陽でも物を美しいと思うし、何も感じないわけでは無い。


陽は花の匂いに誘われるようにして、そっと目を閉じて意識を手放した。


ーーーー


行列を作った桜の影も伸び、太陽は橙色の夕日に姿を変えていた。


酒も団子も無くなり、酔いの回った頭だけで馬鹿騒ぎを繰り返し笑い疲れた面々は、本来の目的が陽であることをお開きになってようやく思い出した。


「忘れてた……」


発案者の藤堂も今の今まですっかり忘れていたようで、全員が無くなった酒と団子の跡を見た。