幕末の雪

気分が乗っていないのが目に見えてわかり、原田もあえて気にしないようにしていた。


一応陽のための花見でもあるわけだし、主役の機嫌を損ねるわけにもいくまい。ただ…主役と言えば、そうであってそうでなかった。


用心して陽だけは刀を置いてこさせられている。


祝われない、警戒の対象にある主役など聞いたこともなかった。


言い出した藤堂もそれが土方の判断となると、口出しは出来ない。


その分、なるべく少しでも近づけるようにと、最後尾を同じように黙って歩いた。


陽が視線を上げると、すぐ目の前には藤堂の姿があった。


男にしては低いが、陽と比べれば高い身長で、目線を合わせようとすれば見上げる形になる。


いつもうるさい藤堂がやけに静かで、陽はほんの少し気にかかった。


「それじゃあ乾杯!」


だがそれも一瞬のことで、花見が始まるなり騒ぎたてた。


(もう飲むのかコイツ達……)


団子片手にもう片方は徳利を傾け、喉に酒を流し込む。


「はあ〜っ、うめぇ!やっぱ昼に飲む酒は違うよな!」


陽への気遣いはどこへやら。そっちのけで藤堂は酒を飲む度大声を出す。


昼から酒を飲むのは常識なのか。辺りを見ると、同じように酒を飲む商人らが沢山いた。


花見ともなれば当然だが、花より団子。団子より酒なのか…。


陽には花見の本質が見えないでいた。