幕末の雪

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夕餉を食べ終えた陽は、一人で自室に戻り刀の手入れを始めた。


まだ一度も使っていないが、毎日欠かさないようにしている。


星が輝き、月が照らす。


障子を開け放っていると、部屋を締め切るよりも静かな空気を味わえた。


遠くで隊士達の声が聞こえるが、それも一つの景色のような自然の音だった。


「鷹尾君、よろしいですか?」


近づいてくる気配は感じられた。けど、まさかこの人とは思わなかったと、陽は山南に視線を移した。


部屋の前の縁側に腰掛ける山南を見て、陽は立ち上がり障子を閉めようとする。


「まあ待ちなさい。そんなに私を警戒しないでください」


「……」


そう言う山南は全く警戒心を持っておらず、今斬りかかっても避けなさそうなほど隙だらけだった。


しかも柔らかな笑顔まで見せている。


陽は障子を掴んだ手を止め、再び同じ位置に座るとまた刀を手入れし始めた。


「君もまだここに来て日が浅い。男所帯で慣れない事も沢山あるでしょう」


「……」


何を話すかと思えばいきなり。


そのような話に陽はあまり耳を傾ける気は無かったが、山南は続ける。


「誰だってそうです。焦らなくたっていいんですよ」


陽にとって、三人目の変わったやつだった。


しかも三人とも、態度の悪い人斬りだった陽を無利益に心配してくるのである。


優しさに触れた事が少ないためか、その手の言葉には少し弱かった。