「あのなあ…!」


「聞こえなかったか」


ドサッ……


自分を見上げていたはずの陽が、何故か自分を見下ろしている。


数秒遅れで、自分が陽に倒されたことに土方は気づいた。


それは尻餅を着いた際の痛みを感じてやっとの事だった。


「私があの場所で何を言えばいいんだ」


握られた手首を反対の手で撫でながら、陽は立ち上がった。


言葉は悲しそうでなければ、強い意思を含んだわけでもない。静かな声だった。


向ける言葉がないのにいい風に繕ったって、後から耐えきれなくなるのはわかっている。


元々陽に性格を欺こうという気もなかった。


だが、それより土方には、自分が如何様にして陽に倒されたかが気になっていた。


確かに掴まれた腕すら振りほどけないような非力さであるし、身長差もある。


それなのに気付いた時には陽に馬乗りされ倒れていた。


力ではない。何かをした風にも見えなかった。それじゃあ……?


陽が教えてくれないのはわかっており、土方は聞かなかった。


その代わり、無表情で自分を見下ろすその真っ黒な瞳をただ見つめ返した。


「一人にしてくれないか」


「……すぐに朝餉だ。いいか、副長命令だからな」


去ってしまう陽の後ろ姿を、土方はずっと見つめていた。


一人で小さな背中なのに、寂しさも恐れも感じさせない。


「あれじゃあ、人形みたいじゃねえか……」


こぼした土方の声は、誰にも聞こえなかった。