幕末の雪

同じような違和感、恐怖を土方や斎藤も感じていたが、一番深く考え込んだのは真剣で戦った沖田だった。


「鷹尾君からも一言」


近藤が声を掛けると、陽は止まっていた時が動くようにゆっくりと視線を上げた。


(あれ、消えた…?)


陽が動くのと同時に、さっきまで大きすぎるほど出ていた恐怖の気配が一瞬で引いて行った。


相変わらず真面目な顔を保ったままの平隊士達は、やはり陽が女であった事に対し喜びの念を抱いた。


沖田の一番隊というのが勿体無いが、このむさ苦しい男集団の中に一人でも女がいれば華やぐと思ったのだ。


どのような性格なのか、仲良くなれそうか、と期待していた隊士達の思いを陽は一言でぶち壊した。


「何もない」


「「……」」


“いやいや嘘だろ”
“あんな可愛い顔してか?”
“え……”
“まじで?”


元々黙っていた隊士達だが、さらに押し黙った雰囲気の中、各々心中(しんちゅう)で会話を交わす。


土方の様子を伺い、まずいぞ…と冷や汗をかく。


何時ものように雷が落ち、自分達まで長時間正座させられることは目に見えている。


ほら来たぞ……!


と言わんばかりに土方が口を開け、隊士達は目を瞑った。