幕末の雪

陽の雰囲気が変わったことを悟った幹部達は、恐怖を感じた。


(まるで気配が肌に刺さるみたいだ…)


沖田には陽から、紫と赤と黒が混ざり合った、気色の悪い気配が飛んでいるように目に見えた。


これが恐怖の色なのか…と、そっと肌をさする。


寒気に似た感じだ。


陽はただ立っているだけなのに、動けばそれだけで蛇に睨まれたカエルのごとく動けなくなる暗示さえ感じたほどだ。


あんなの、人じゃない。


そう感じてしまうほど、陽の気配は異色で大きかった。


ふと隣を見ると、平隊士達は何も感じずに真面目な顔ぶりで近藤を見ていた。


どうやら、気配を察す事のできる数人にしか、この肌を刺す恐怖を感じられないようだ。


「鷹尾君は女子ながら剣の腕も立つし、新撰組に入る勇気ある人間だ」


隊士には人斬りを討伐したことは言ってあるが、陽がその人斬りだった事は言っていない。


どうやら隊士達には隠すようだが、ふと沖田は気づく。


あの晩、陽の瞳を見て確かに恐怖は感じたが、今ほどではなかった。


それに恐怖の種類が全く違う。


あの時は陽の実力と正体がわからなかったことと、過去を覆い尽くすかのような真っ暗な瞳への恐怖だった。


そして、自分の命を賭けることへの恐怖。


だが、今回は殺気とはまた違う、平凡的なようで気味の悪い恐怖だ。


しかも今の本人を見る限り、意識的に気配を放出させているわけでもなさそうだ。


ただ、本当に立っているだけ。